2023,初公開 上瀧勇哲 昭和の軌跡 1971~1972ごろの想い出小説 mujik夏川りみ 14 愛よ愛よ
 
大和三郎丸の生い立ちを描く、小説・マイファミリー・シリーズ、お楽しみ下さい 

フィッシングライフ 上瀧勇哲 昭和の軌跡

小説 マイ・ファミリー 第二巻 「 年上の人 」 続編 3

         ペンネーム 大和三郎丸 (上瀧勇哲)

 竜神伝説と初恋・完結  年上の人.1・続  年上の人,2・続  年上の人,3・続  年上の人,4・完結
 小説 「車イスの家族」  海洋の生立ち1~3 小説「他人の子」1~4     

  小説 マイ・ファミリー 第二巻 「年上の人」      続編 3

  「年上の人」 続編3       はじめに 作者の私 上瀧勇哲の紹介

私の名前は上瀧勇哲、九州北部にある百万都市、北九州市小倉守恒で生まれ、三郎丸で育った。
その上瀧名は(じょうたき)と読むのだが、佐賀県佐賀市から続く大和町、小城市に多く、地名では、ありふれた名として現存する。その読み名は、カミタキ、ウエタキ、コウタキ他、色々な読み名は他にも多くあるがベースは同じ。 その、私のルーツを探しを、昭和の時代から平成の初期に始めたが、私の先祖は小城市。母方の牛島家は佐賀市から始まる武家と商人で集合され、県外の福岡県を、またいだ筑前から東京まであるが、直接のご本家は佐賀県神崎にある。この辺のところは本誌で何度も紹介しているのだが、ホームページを開くと詳しく紹介している。

さて今度は、高専から勤め始めた会社が北九州市若松区の吉田印刷KKという事で、その街で出会えた、お姉さんのような「年上の人」を紹介している。
学生から社会人になったばかりの若者(私)は、公害都市、北九州市若松の、ド真ん中の会社で、たくさんの先輩、師匠、釣り仲間を多く作ったが、それは男性ばかり。20才になった私が、始めて女性に興味を抱いたのが年上の人、中野まゆみさんだった。女ギライで無口な私を、なぜかしら女性のハートを知るキッカケになった方は、沖縄から来た素敵な年上の人だった。

そのストーリーを前編1で紹介し、続編2.この度は続編3.として17Pで紹介します。
最終稿は続編4.になりますが、小説マイファミリー、第一巻は「竜神伝説と初恋」16Pで紹介しました。この小説も私が生まれた小倉守恒を舞台にした幼い頃の出来事を書いた伝記です。

そして「年上の人」続編3となりますが、全てが私の過去の記録として残しておきたかった内容です。その上で「年上の人」は平成3年に書き上げたものを、2022.1に再校し紹介しています。前号までの、あらすじは

登場人物

◎私、上瀧勇哲が、初めて会社に勤め始めた昭和43年~46年までのストーリー。通勤から始まった会社の出来事、職場の上司に先輩、若松の町並み、景観、その中で出会った人々とのコミュニケーション。そして私の心を躍らせた一人の女性。その結末を紹介するドラマ。
◎中野まゆみ       年上の人・主人公
 中野 弘        中野まゆみ、弟、大学生
◎池田さゆり       吉田印刷所の事務員(マドンナ)
◎石橋のおじいちゃん   吉田印刷所の管理人
◎石橋のおばあちゃん   (空閑課長の義祖母)
◎芳野病院の院長 
◎その院長夫人
◎真浄幸子        会社近くの駄菓子屋の女将
 真浄の姉妹、長女洋子、次女真美、三女美香
◎吉田印刷所の社員
 空閑敏明        平版印刷機械課の課長
 萩原金安        大先輩
 中西悦二        三階、平版製版の先輩
 有門 博        工場長
 宮村博敏        二階、活版製版課の課長
 吉田正人        社長
 柚木洋一        専務

 前編から 続編 2 までのストーリー                          

①序奏。昭和43年の早春、私の家から吉田印刷所に勤める。      19才の私
②通勤が始まる日                          昭和43年~45
 北九州市小倉三萩野から通勤が始まり、通勤途中で出会う人々、そして吉田印刷所の工場とは
③年上の人。                            昭和45年、冬~4月
若戸大橋橋台上で、出会う年上の人。寂しそうな、その人を想う心が、更に増してゆくとき

④初夏の想い出、若戸大橋橋台バス停の出会いから小倉井筒屋デパートに、買い物に誘われて
                                  昭和45年、初夏
⑤事務所のマドンナ、池田さんの冷やかし
 印刷物を芳野病院に届けたとき、受付の年上の人、中野さんとの出会い 昭和455
⑥若松明治町銀天街で年上の人から声をかけられ赤提灯で食事に誘われた。昭和45年6月
⑦二度目のデートは映画と丸柏デパートのハンバーグ定食        昭和456
⑧若松橋台上で出会った年上の人と小倉魚町銀天街と小倉城公園のデート 昭和456月末
⑨年上の人と四度目のデートは小倉祇園祭と、小倉城          昭和45年7月18
⑩弟、弘くんからのプレゼント                    昭和457
⑪高塔山のハイキングと若松商店街の藪のそば             昭和45年8月上旬

⑫ 沖縄からのプレゼント                        昭和45年9月~10

残暑が暑い9月、工場の中では相変わらずランニングシャツ一枚で頑張っている私達。
ときどきの残業で、柚木専務から冷たいアイスとか、ジュースの差し入れがあり、当然のように美味しく頂き、残業にハッスルしている日々が続く。そんなとき今年の会社慰安旅行は、社員のアンケートで、沖縄旅行二泊三日が決まり、秋の11月の三連休に沖縄旅行が決定した。
私達の会社では年一回、会社の旅行積み立て補助金制度があり、これまで鹿児島県の佐多岬と霧島温泉。阿蘇熊本観光、雲仙島原の天草五橋など行った。
入社3年目の私は、当然、飛行機で行ける沖縄旅行など信じられないので凄く楽しみ。

それは、年上の人、中野さんの故郷の海を見たかったので凄く楽しみだった。
そんなとき、三階の平版製版で版焼きしていると、渡辺課長が大声で
渡辺課長「ジョーさん、マドンナがお呼び」

     

その事で全員が一斉に私とマドンナに注目。

広い職場は、平坦なところにライトテーブルが6台、事務機が8台、他、平坦な機械だけなので、立っていると全てが見渡せる職場環境。
その中に一際目立つマドンナ池田さんは、淡いピンク色の長袖にタイトスカート。
165㎝とスラーッと背が高いので凄く目立つ。
今日は長い髪をポニーテールスタイルに、小さな白いリボンを結び、凄く似合ったファッション。作業着シャツの私が近づくと不似合いの子供?になりそうで、行くと、手に、手提げ袋を持っていたものを、そのまま私にくれた。

マドンナ「ハイ、彼女からのプレゼントです」
私   「アー、これ何ですかァ」
マドンナ「言っているでしょう、彼女からのプレゼント」
私   「アー、そんな彼女いませんけど」

マドンナ「又、はぐらかして、居るでしょう、沖縄に」  
私   「沖縄ですか」

マドンナ「そう、沖縄から来た彼女です」
まだシッカリ分かってない私でも、もしかして、あの年上の人かも知れないと想った。 でも、彼女と言われると恥ずかしい、それに公然と言われると、尚更恥ずかしい。しかも、職場の皆が耳をすまして聞いているので、尚更、彼女とか言われると困る。
ハッキリ言って、そんな関係ではないと想っているから。そんな事で黙っていると、

マドンナ「芳野病院、事務をしている中野まゆみさんの、弟さんから預かってきたのよ」
マドンナ「彼女でなく、彼女の弟さんからの預かりもの、受け取ってね」
それでも一同、変、でも少し納得。
いつもジョークが多いマドンナは、ここでも私をイジメルのだ。おかげで顔が赤くなったのを付け込んで、 マドンナが「ホラ、顔が赤くなった、ホラ、ホラ」と、最後の最後まで好きな事言い。
「ハイ、終わり」と、渡辺課長。サァー仕事、仕事。

それで、その紙袋の中に何が入っているのか知らないが、開けるのは家に帰ってからするつもり。そう想って仕事に集中していたら

矢島先輩が「上瀧、中野ッてだれか?」
私   「……………」
迫さん 「ジョーさん、この間、大正町商店街で会った、あんときの人が中野さんとか言う人?」
私   「……………」
中西先輩「ジョーさんだって女の一人や二人いてもおかしくないし、気にするなァ」
私   「イャ、彼女でありません」
中西先輩「ゴメン、ゴメン、そんなんじゃないよ」
私   「……………」
この日はマドンナ池田さんのジョークがキッカケで、おもしろくない一日だった。
そして帰宅してすぐに袋の中を見たら、手紙が入っていた。奇麗な字だ、あの年上の人だった。

上瀧様
前略、毎日のお仕事お疲れさまです。
先日、弟と一緒に故郷の沖縄、名護に帰り、久しぶりに、お墓参りを済ませ、大宜味村の親戚方々のご挨拶をしてきました。
その上で、国頭郡本部町の「美ら海水族館」に行き、魚さんを見てきました。
ジョーさんが、いつも釣りをする魚は、どんな魚?。沖縄の魚はカラフルで、若松の魚と違うみたい。それでね、魚さんの形をしたオマンジュウと、沖縄の黒砂糖菓子、チョコレート三箱入れました。その菓子は弟が選んでくれたのです。
家族で召し上がって下さいね。
この紙袋は池田さんに預けてお届けしました。又、お世話になります。
弟が、よろしくと言っていました。                     草々

その菓子を母に差し出し「会社の友達から貰った」と言ってから、早速、甘いイルカ饅頭をみんなで頂き、沖縄の味を楽しめた。
次の日の朝、いつもの石橋のおばあちゃん室に入り、昨日のオミヤゲの一部、黒糖チョコレートを持って、二つずつプレゼントすると、「これは、うまか」とかで、石橋じいちゃん大喜び。
すると、すぐに事務所のマドンナ池田さんがやって来て 「ジョーさん、おはよう」

私   「ハイ、おはようございます」
マドンナ「ところで昨日の彼女からのプレゼントどうだった?」
私   「彼女ではありません、彼女の弟から貰ったものです」とか言い逃れして、
そのオミヤゲの一部、チョコレート三枚、マドンナにプレゼントすると。
チョコを包んだ包装紙に、沖縄という名が入っていたので、すぐに分かったマドンナ。
マドンナ「ありがとう」続けて、
マドンナ「ジョーさん、イイわねー、みんなから好かれて」と、羨ましそうに私の顔をマジマジ見つめる。その瞳の大きさが、何か言いたげな感じの瞳。

でも、そのマドンナが何故か素敵なマドンナに想えた。

それにしてもマドンナから、普段、色々なところでチョッカイかけられている私で、話しをしていても一つもドキドキ感がなく、ハートが熱くならないのに、なぜ年上の人、中野さんに会うと、ドキン、ドキンするのか分からない。
中野さんは私のこと弟と想っている。しかし、これが普通、オレはモテないし、本来、女キライでいるつもりなのだ。だから会社に、たくさんいる女の子と話しを、ほとんどしたことがないのだ。



そして11月に入り、すぐの三連休に沖縄旅行が始まった。
福岡空港から直行便の沖縄那覇空港、すぐに貸切バスが来て首里城へ、全員集合の写真を撮り、1時間後には糸満市の平和公園へ、戦後の慰霊碑とか、姫ゆりの丘、防空壕では陸軍司令長官を務めていた私の遠縁になる牛島中将の遺品など、そして鍾乳洞、戦争で亡くなった軍人はもちろん、民間人の慰霊塔が悲しさを際出されているようで、本当に気のどくい。
戦争は絶対にしてはならない、そう感じながら、観光施設巡り。
那覇のホテルで一泊した。次の日、再び観光バスで名護市へ、パイナップル館から、チョウチョがたくさんいる植物園、そして観光の目玉、美ら海水族館めぐりして、黒糖菓子園でバスが止まり工場見学兼買い物、夕方にやっと恩納村の「かりゆしビーチリゾート」に宿泊。
早朝バイキングし、すぐに観光バスに乗り、宜野湾市の琉球村で、半日凄し那覇空港で少しの買い物ができ、福岡行きの飛行機に乗ると、午後7時着、電車で皆は折尾で若松方面に乗り換えたが、私はそのまま小倉まで行き午後9時に帰宅できた。
とても慌ただしい、沖縄旅行だった。それで、年上の人の故郷は観光バスで通るだけだった。


 

⑬ 会社の新年会帰りに出会った、年上の人と喫茶店「レオ」 昭和4512月~461

晩秋から冬に入った12月、もうすぐ師走のこの時期、印刷所は大忙しで、丸柏デパート、熊本の太陽デパートのチラシにDMが次々入ってきて、平版印刷機械課は二交代になるほど忙しい。年賀状や、市政からの注文も大量に入ってくるので活版製版も、機械課も連日残業が続く。
こんな時期、私は何処の職場から、引っ張りだこで連日の残業、というよりは会社で泊まり込みの仕事が続き、家に帰れない事も、しょっ中ある。
それでも「若いモンは、買ってでも仕事せナァー」と、萩原の親父から激、飛ばされる。
しかしながら残業を、すればするだけ給料もイイし、その内、マイカーを買うつもりでいる、その為の貯金を少しずつしているつもり。
親は19才で交通事故をしている私なので、二度と車は買わせないつもりでいるが、やっぱり車があれば深夜残業しても家に帰れるし、早朝出勤もできる、等々考えているので、来年ボーナス貰ったら買う予定で、先日、ニッサン自動車小倉販売店に行き、聞いたら中古車を勧められた。中古車はすぐ壊れることを聞いたので新車のニッサン・サニー1200㏄を決めている。

さて、会社ではこの日、A2のパールというスイス製の単色機で北九州市の舟券を印刷している。 舟券は若松ボートレース場で使う、お金代わりの券で、レース結果を予想した番号が、ここに表示されるもので、オフセット印刷したものを今度は№リングが三段に入り、お札のようなラベルとなり100枚一冊単位で製本されるもの。紙幣のように36丁掛け、B3サイズで26万枚印刷するのが私の仕事で、これを5日間で印刷する。それで毎日、夜10時までの残業。
家に帰ると12時前と辛い。それで、今週は3日間を深夜3時まで残業し、一日分を縮める予定で、土曜日休みを空閑課長に相談したらOKで、土、日の連休日ができた。 早速その予定で魚釣り。

1216日の連休に釣り仲間で小倉住友金属に勤める中西さんと大分県鶴見の磯釣りをチェックし、エサとか渡船の予約をしていたら、空閑課長も便乗してきた。何でも、阪田インキの遠藤さんが営業車を出し、所長も行くとかで、二台のマイカーに7人で若松を出発することになった。
早朝5時便で鶴見崎の大島という磯に上がり、この日は波が大きくシケていたが、それだけメジナが良く釣れた。底物狙いの空閑課長と阪田インキの遠藤さん、所長は石鯛が9枚と絶好調だ。次の日は、先の瀬の磯で、やはり11枚の石鯛。私達は昼までとしイサキ、メジナを50ℓクーラー満タン。

そんな大漁した次の週、会社の釣りキチが集まり、吉田印刷磯釣倶楽部が結成された。
会計と書記長が一番若い「上瀧がナレ」とかで、イヤな仕事がまた増えた。
そして今日も残業、会社の年末年始の休みが1229日から正月3日までが定例日となり、その間に今年の仕事は全部、終えてしまう事なので、各職場にハッパがかかる。

そして早朝の社訓には、吉田社長が「今年はボーナスを2ヶ月分。そのときの昇給はいろいろあるが、それは一年間を通し真面目にガンバッた者に多く出す、楽しみにしてガンバッてほしい」とかの話しだ。今日は三階の平版製版課で仕事をしている私。
渡辺課長はカゼ気味で早々に午前中、芳野病院に行った。そのとき受付してくれたのが中野さんとかで、ウワサの話しを皆にするのだ。

そして、私をチラーッと見て、ハイおしまい、仕事するゾ。

矢島  「お前、モテるノォー」
迫さん 「芳野病院は若い女性看護師が多く、若松で一番人気、その中でも受付する女の子は5人ほど、美人が多い」とか。
フンフン聞いている中西先輩も「カゼひいて行ってみようかァー」とか。そしてあまり知らない、
渡辺課長が「ジョーさんと中野さん、どんな関係?」  
私   「………何にもありません、毎日残業してるし、会社から、こき使われています」

渡辺  「そりゃそう、大人の女性とジョーさんは子供、そんな関係」でした、で、お話終了。

それにしても、このごろ年上の人と、全く会ってないし、何も、ないのがつまらない私。

でも今日、課長が病院で「年上の人」と会って話しが聞けたことで、ホッとした私だった。
そして、年末の給料日、今までにないぐらいのお札が入った袋を三つ貰い、ルンルン気分で帰宅。
12月の残業は165時間で、日給より残業代の方がたくさんあり、母に渡すと大変喜び、母が「ありがとう」と言ってくれた。 そして30日は家族でモチつき。

親戚の小林さんファミリーや、ご近所さんも加わり、大賑わいでモチつき大会。
たくさんの小モチ、あんこモチも含めて1ヶ月ほどモチが食べれる。そして、お正月は、やっぱり初詣は近所で済ませ、後は寝て、のんびりの正月がアッという間に終えた。

そして会社勤めが始まった。
その週の土曜日は、丸柏デパートの4階食堂を全部貸し切り、吉田印刷所の新年会を開催。
全て会社持ちの豪華な新年会は、たくさんの料理が並び、食べ放題。その開会の挨拶前に、代議士の麻生太郎さんがやって来て、ご挨拶。
「いずれ総理大臣になる方です。選挙のときはよろしく」と、吉田社長からの一言も加えられ、その後、麻生さんと一緒の新年会。
私もカラオケ一つ歌わせられ、加山雄三の「君といつまでも」を歌い大拍手。そして午後6時閉会。 職場の男達はみんな二次会とかであるが、私は酒が苦手、誘われても、いつも辞退。それに無理やり飲まされた酒で、頭がボーっとしている。
それで気分を変えるつもりで銀天街のホラヤに寄り、買い物するつもり。
お正月を過ぎた土曜日のネオン街は色とりどりで奇麗。商店街通りも明るく、お店は活気に満ちて明るい。

その中で、どこか見た女性が近づいてくる。 あの年上の人だった。年上の人も気づいて、
年上の人「アラ、ジョーさんじゃないの」
私   「ハイ、こんばんは」
年上の人「どうしてここにいるの?」
私   「会社の新年会が丸柏デパートであり、その帰り道です」
年上の人「そうなの、私も帰り道なの」
年上の人「お茶おごるわよ、行かない?」
私   「あ、ハー」と、分からない返事をしている間に顔が赤くなってしまった。

彼女というか、中野さんは、今日は病院の紺色のスーツに、上から淡茶色の温かそうなコートを着ていて、凄く似合っている。しかも長い髪は一つにまとめたポニーテールし、その髪をまとめた、小さな紺色のリボンが似合って凄く奇麗。
清楚で化粧が少ないのが魅力の年上の人を見ると、すぐに、ドキン、ドキンしてしまうのは、なぜかしら分からない。 すると、私の腕をつかんで、すぐ側の喫茶「レオ」に入った。小さな通いつけのような雰囲気。すぐにホットコーヒー二つ注文して、二人掛けのイスに座わる。温かい室で、より身体が熱くなりそうで、なぜかシックな落ちつけそうな喫茶店。マスターとも気軽に話せている年上の人の、お店は、やはり大人を感じる。 小さく聞こえるクラッシック音楽で心地良くしていると、私達のようなペアーが五組もいた。
温かいコーヒーをマスターが持って来てくれて、マスター「キリマンジャロコーヒーですが、ミルクとかは、ここに置きますから好きなだけどうぞ」で、早速、

年上の人「ジョーさん、ミルク入れて上げようか」 
私   「ハイ、お願いします」

年上の人「シュガーは何ハイ?」
私   「あー、一パイ」

これが凄く美味しいというより、今までこんな香りのよい高級コーヒー飲んだことない。
これが大人のコーヒーかと想ったら、年上の人は何も入れないで、そのまま飲む。
苦いコーヒーを、と想ったが、凄く上品に少しずつ口に含んで飲む年上の人。すぐに私を見て、
年上の人「ジョーさん、今日の新年会どうでした、楽しかった?」 私「ハァ、そうでも」
年上の人「そうなの、池田さんがね、準備大変なんよ、とか言っていたから、どんな感じかしら」
年上の人「私達は女性ばかりでしょう、院長先生が、いつもの赤提灯でお昼してくれるのが新年会なの。別に大したお話しはしないけど、食べきれないぐらいの料理を出してくれるの。「貴方は、たくさん食べたの?」

私   「ハァ、ご飯がなくて、少しだけ」
年上の人「お酒は飲まない、のよねェー」
私   「ハイ、少しだけ飲まされ、顔が赤くなります」
年上の人「そうでもありませんよ、普通です。今の貴方は」  
私   「ハァ、そうですか」

年上の人「もうすぐ10日恵比寿、お祭りがあるのだけど、貴方は初詣、何処に行ったの?」
私   「家近くの神社を二つほど行きました」
年上の人「そうなの、私は、お友達と近くの白山神社と恵比寿神社に行ったのよ」
私   「ハァー、そうなんですか」
年上の人「それでね、貴方が教えてくれた神社にお参りする作法、二礼、二拍、一礼でしょう。その中で手をパチン、パチンするのが苦手なの、中々音が出ないの?」   
私   「ハァー」

年上の人「私の手が小さいのかしら」とか言いながら、学生のようなカワイイ手を出して
年上の人「ジョーさんの右手だして」
私の手を前に出させて、年上の人の手を重ねると思わずドックン、ドックンの心臓が鳴りだした。
年上の人「ホラ、こんなに私の手、小さい」
年上の人「弟の手も意外と小さいのよ」
年上の人「貴方の手が一番大きい、しかもガッチリしてる手」とか言って、やっと解放してくれた右手。年上の人の手は、白くて、細長くて、学生の女の子の手。でも、何故かしら魅力的な指には、マニキュアもなくて、やっぱり清楚。 化粧もなく、クリームだけ、少し大きめの唇も淡いピンク色だし、ほとんど素顔。
でも、少しだけ甘い香りがしているのは香水なのか、それとも洋服かも。

そんな感じの年上の人が常連にしている喫茶店は、コーヒーの香りがプンプン香り、客がコーヒーを注文すると、尚更イイ香りがして、いつまでもここに居たい。
そして年上の人が一緒に居て、そんなロマンチストなイメージの中、年上の人が優しく、静かに話しをしているのを聞くと、何故かしらウットリ気分になり、今日の仕事の疲れが一変でブッ飛ぶ。
さっきまで新年会でガヤガヤ、ギャーギャーの喚き声とも爆声が、ここでは全くの癒しのスポット。
客の声も小さく聞こえるし、やはり、マナーの良い客ばかり。それに若いカップルも静か。
そんな雰囲気を一変でブッ飛ばした客が入ってきた。入るなり、私を見つけ、

「上瀧やナイカー、そこで何しとるかェー」と、大声は職場の親父、萩原さんだ。
飲みすぎで、少し頭を冷やすのが目的として、一緒に来た荒木さんも二次会の帰りとか。
二人とも顔を真っ赤にし、私達の前に来たから困った。
すると、年上の人が「いつもお世話になります。芳野病院の事務をしている中野と申します。
「いつも柚木さまにお世話になっています」と言ったので、二人とも面喰って「ハァー、こちらこそお世話になります」とか言った。
荒木さんと、萩原の親父は、なぜかキョトンとして、
荒木さん「よう分からん、上瀧の姉か?」とかいうことで、すぐにこの店を出た荒木さんと親父。
それで 「すいません会社の上司なので、すいません」と、年上の人に謝る私。

年上の人「いいのよ、男の人はこんなとき日頃のウサをはらす為にお酒を飲み、ストレス解消するのね。貴方も少しはお酒を飲んでもイイのよ」
私   「イエ、私は、お酒は好きではないので飲まないのです」
年上の人「イイのよ男の人は、お仕事大変なのだから。私もね父がお酒が好きで亡くなったの」
私   「エェーッ」と声が出ない。

しばらく黙ってうつむき、年上の人のお話しを聞くだけにしていると、
年上の人「昨年、沖縄に帰ったとき貴方に報告したのね。それは親のお墓参りだったの」
年上の人「いつも、この事を想っているのだけど、父親が居ないって寂しいでしょう」
年上の人「今は沖縄で、一人ぼっちの母、弟は東京でしょう」「家族がバラバラなので、少し寂しいときがあるの」「それでね、ときどき貴方と会いたいの、イイかしら」 そのような話しを聞いていると、なぜか涙が出そうで、可哀そう。
年上の人「貴方ね、お父さん、お母さん、居るでしょう。大切にして下さいね」  
私   「ハイ」




何故か、しんみりした雰囲気になってきて、年上の人がコーヒーのお代わりを注文し、再びコーヒーに、ミルクと砂糖を三ハイもスプーンですくってくれて、
年上の人「甘いもの飲むと元気が出るのよ、今日は今からお家でしょう」   
私   「ハイ」

年上の人「もうすぐ恵比須神社の、おいべっさんの祭りがあると聞いたの、いつか分からないけど、仕事帰り、一緒にお参りしない、帰りはここでコーヒーおごるわよ、行かない?」
私   「ハイ、行きます」
年上の人「良かった、これで楽しみが増えた。貴方と一緒にいるとき一番幸せなの」
私   「ハァー」
年上の人「そう、何でも正直に言って、貴方が正直に答え、聞いてくれるもの、弟にソックリなのよ貴方は」 
私   「ハァ、そうですか」
 温かいコーヒーミルクを飲みほして、店を出て、
年上の人「私と同じ方向のロータリーバス停でイイかしら」  
私   「ハイ、送ります」

賑やかしい商店街を出ると、小さな小雪が舞い、少し寒そう。でも私は温かい、心も、身体も全て温かい。 年上の人も、小さな鼻を赤くして、ときどき私を見てくれて、優しいお姉さんのような女性が少し身体をくっつけ、ゆっくり歩く、時おり風がスーッと粉雪を舞い散らすので、私達のスキ間を通り抜けるので、年上の人が私の左腕をつかみ身体を寄せて歩いてくれる。
ゆっくり、ゆっくり温かい雪道ができ、両サイドのネオン街が、赤、緑、青と美しく照らし、雪化粧した通りを更に輝きを増す温かい雪道。
私の心臓が、いつもよりドキン、ドキンして、もうハチ切れんぐらいの感じでいると、年上の人の髪が風に吹かれて私の顔に当り女性を感じる。すごく幸福、もう私は大人になった気分。そんなわずかばかりの時間が過ぎて、ロータリーのバス停に小倉浅野行のバスが着いて、私を待っている。
年上の人が、背中をボーンと押して「走ってらっしゃい」で、何とか乗車できた、 バスの窓から年上の人が小さく手を振ってくれている姿を小さくなるまで見て、席についた。

毎日、毎日の残業が続くこのごろ、今月も145時間の残業。そして休日出勤が二度、 そして、社長から呼ばれた「君は4月から機械部の班長をしてもらう、イイかね」
社長  「まだ若いが、君ならできる。空閑課長の話しを良く聞き、いずれ君が、その責任を取ることになる、イイかね上瀧くん」  
私   「ハイ」

社長  「ところで上瀧くん、芳野病院の院長が、君の名前を言っていたけど、院長と知りあいか?」  
私   「イェ、ありません」

社長  「そうかね、君の名前が良くでてくるので、てっきり何かあるかと想ったけどマァイイ、仕事に戻りたまえ」 
私   「ハイ、失礼します」
その話しを聞いて想わずドッキン、ドッキンしてきた。まさか中野さんの事、問われるかと想った。その話しを、そばで聞いていたマドンナ池田さんが「ジョーさん、ハイ」といって、いつものアメ玉2つをくれた。  「ありがとう」
そのときのマドンナの眼差し、ニコニコ笑顔で「私、知ってるモンね」の顔だった。
それで、顔が赤くなった。
マドンナ「ホラ、顔が赤くなった」とイジメる。
そんな仕草をしていると、経理の近藤さんが「上瀧くん、何かイイ事あった?」
私   「イェ、何も…………」と言って、急いで事務所から逃げた。
     そのとき、後ろで大笑いしている近藤さんとマドンナだった。

私   「チクショウ、又、イジメラレタ」と想った。

2月に入り、納品が追い付かないので 「一日、配達の運転をしてくれ」と、工場長の有門さんから指示された。ライトバンの軽自動車に10ヶ所ほどの配達荷物を積み込むと、すぐに納品書を持った、マドンナ池田さんがやって来て、助手席に座る。 最初は、若松信用金庫。次が三菱鋼業。次は栄寿司屋。次は○○と、7つも一緒に言ってくれても困る。 

私   「ゴメン、道が分からない」

マドンナ「ア、そうなの。じゃ一番は信用金庫の裏口に車を止めてネ」で出発。
マドンナは、いつもの紺色スーツに白いブラウス。寒いので水色のカーディガンを着ているが、紺色のタイトスカートは膝上10㎝ぐらいで、座ると更に短くなるので、私は想わず恥ずかしく見てられない。それで、マドンナも少し気にして、ハンカチを膝に置いた。

すぐに信用金庫に着き、大きな包みを二つ持ち、マドンナは納品書と請求書を会計課に持って行き、私は案内された倉庫に印刷物入れる、これが私の仕事。すぐにマドンナが車に乗って来て、「次、栄寿司」このお店はマドンナと一緒に入り、 「吉田印刷所から納品に来ました」とマドンナ。
始めてのお店、高級寿司店だが、マドンナは良く来るみたいで店主と顔馴染み、みたい。
すぐに納品が終わり、次は永田製作所。
こちらは北湊にある大きな工場の事務所に入り、印刷物を一度に持ったので、すぐに終わる。そして、植田製作所から東海鋼業まで行くと、雪がチラホラ降りだした。
最後に芳野病院に入る。


玄関で、いつもの年上の人、中野さんが「寒かったでしょう」と優しく声かけてくれた。
池田さんに、年上の人が「院長室に納品置いてね」という事で、私は長3の封筒3000枚の箱を持って案内され、置くだけと想ったら、
年上の人「チョット待ってね」と待たされて
年上の人「ハイ、ミルクコーヒー。池田さんは紅茶ね」 そして「そこのソファー、座ってイイのよ、今日は院長先生、出張中なの、10分ぐらいならお話しができるわよ」と、池田さんと二人で、いつものお話しが始まり、私はポカーンと院長室を見るだけ。
すると、年上の人「アッ、ソウソウ、ジョーさんにコレどうぞ」と、ポケットから出したチロルチョコレート。
「ジョーさんは甘いの好きでしょう」と年上の人。
すると池田さんが「甘やかしたらダメょ、皆からたくさん貰っているのよ」とかで再び盛り上がる会話。この二人、すごく似合いの姉妹みたいと感じた。そして、やっぱり私のこと何でも知っているハズだと想った。
帰り際、年上の人が私にメモ紙をくれた。
年上の人「後で見てネ」

次の日の朝、いつもの石橋のおばあちゃんの室に行くと、今日は何故かしら空閑課長が座っている。空閑課長「上瀧かァ」
私   「ハイ、おはようございます」
ここに来てコタツに入れと手招きするが、私は遠慮し、いつもの縁側に、ちょこんと腰かけた。
すぐに、ばあちゃんが熱いお茶を入れてくれた。
石橋の、おばあちゃん「このお茶は八女茶なんョ、敏さんが持って来てくれたんョ」 敏さんは空閑敏明課長の事で、二人とも義理の息子になる。だから時々、課長はここに来ている。

そして、すぐに、マドンナ池田さんが「おはよう」と来て、私にハイタッチを求める。

ジョークと想えるので、しない、すると、
マドンナ「中野さんとするのに、私はないの?」
私   「エーッ、そんなァー」と、又々顔が赤くなってしまった。そして
マドンナ「ホラ、顔が赤くなった」と、イジメられるので、茶を一気にゴクンして室を出ようとすると、マドンナ「ジョーさん昨日、お手紙貰ったでしょう、返事はOKなの?」
私   「アー、そこまで知っているんですかァー」
マドンナ「そうなの、貴方の返事を待っているわ、電話してあげるから、ハイ返事は?」
私   「行きます、仕事帰り体育館前で」
マドンナ「OK、電話しとくね」と。

⑭ 年上の人と恵比寿祭りは、福くじ一等賞                    昭和46年2月

平日の仕事帰りは5時の定時で終わる。ゆっくり着替えて会社を出るときは、もう外は真っ暗。外灯だけが所々にあり、暗い通りがあるが、それでも会社帰りの人々が引っ切りなしに通る。
その人通りが二つに分散されるところが真浄の店前、そこから右折すると若松体育館があり、正面から恵比寿神社に入れる道がある。
丁度、若戸大橋下に沿って恵比寿神社があり、そこだけは街灯も多く、明るく、人の待ち合わせをするような場所。
今日は、その体育館前が、年上の人との待ち合わせ場所。

夕方6時を過ぎても、さすがにバス通りとか、体育館通りは人が多い。その上、今日は神社の祭りなので、より多くの人々で、ごった返している。

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その電話ボックス前に年上の人がいた。
いつもの薄茶色のコートの下は病院のスーツで、しかも白い雪のような帽子をカブッていたので、自慢の黒髪がなかった。それで、前髪だけ左右に分けさせ、額を半分にした顔立ちは、ホワイト色の帽子で似合っていた。 その女性から「こんにちは」

私   「ハイ、こんちは」と少し頭を下げて、 もう一度、年上の人の顔を見た。
ニコニコ笑顔で凄く嬉しそうだったので、良かったと私。すぐに、恵比寿神社通りに入ると、もう人の波に押されるぐらい、大混雑。 すぐに年上の人が私の左腕をつかみ、シッカリ寄り添うと、チョット温かさを感じる左腕、そして手。
ときどき押される人の波に年上の人の身体が触り、一瞬、ドキン、ドキンして、再び心臓が早くなっているのが分かる。
その両サイドに露店の店が並び、あっちこっちから美味しそうな匂いがしてくるが、 それよりは、まず、本殿までのガンカケが大切。
黙って私の左肩に寄せる年上の人の顔が当りそうで恥ずかしい。でも嬉しい。

その人波が止まり、正面に神社が見えてくると、一歩ずつ前に進む。
6人が並列に並び、私達は中央の位置にいた。
そして、ポケットに入れていたお賽銭15円を投げ入れると、大きな鈴綱を握ったら


年上の人が「一緒に鳴らしてイイ?」と、私に哀願するので、
私   「ハァー」で、二人で小さく振って、ガラン、ガランと小さな音。
そして二礼、二拍、一礼。手を合わせ、お願いごと5秒が私。
終わって左を見ると、まだお祈りしている年上の人。
その横顔に見とれていると、ホーッ、とした年上の人の顔が一瞬、私の顔に写ったのだろうか、恥ずかしくなって下を向く、年上の人。
始めて私が勝った、そう想ったが、それよりも、そのような仕草の、年上の人の姿が素敵で幼さが私に写り、素敵な女性像を又一つ知った。

すぐに年上の人が「オミクジ買ったわよ、貴方は弘くんの分まで買ってね」
年上の人「そのオミクジを、そのまま弘くんに上げるの」 
私   「ハァー」として

年上の人が二百円も入れた。
オミクジは生年月日まで入ったもので、大判で
年上の人「貴方は2月生まれでしょう、みずがめ座でコレ」
年上の人「私は、ね年の5月生まれで赤い札」
年上の人「弘くんは貴方と同じ年の10月生まれでコレ。その中から一つ選んでね」 一つ抜き取って、年上の人にやると、そのままバッグに仕舞った。

年上の人のオミクジを、封を開けると中吉だったとか。私は大吉。
その文句、文言を読んでいる年上の人が、段々と難しい顔つきになっているのが分かる。
年上の人「でもオミクジだから」と寂しそうな顔。
年上の人「貴方はどうなの見せてくれる?」
私   「ハイ、どうぞ」 すると、大吉を見て
年上の人「スゴイ貴方、この間も大吉でしたね」
私   「ハアー」
年上の人「貴方は運が強いのよ、きっと」
私   「良かったら、その札あげますけど」
年上の人「イイの、何故か少し運をもらったみたいで、イイの?」     
私   「ハイ」

年上の人「貴方のこと好きよ」と、小さな声で聞こえたような気がした。
そして、すぐに腕をつかまれ、200円の富クジを買うことになった。
一等賞は、カラーテレビ。二等でもカラオケボックスが当るとかの富クジ。
早速、年上の人が引いて、えびすタオル。
私は、二枚買った。一枚は弘くんの分だ。
そう想って三角クジを開けると三等賞、酒。

もう一枚の弘くんの分を年上の人が開けると、何と一等賞、16インチのカラーテレビが当った。すると、大きく鐘がなり、マイクを持った氏子がスピーカーから大きな声で
氏子  「奇麗な女性が一等賞当てましたー」
氏子  「どうぞステージへ」
イヤイヤした年上の人。代わりに私がステージに上がり、三人の氏子と握手した。
そのテレビ、後で届けてくれるというので、年上の人のサインが必要。
年上の人「ジョーさんが買ったクジでしょう、頂く分けいきません」
私   「イエ、弘くんと私は言っていますから」 ぜひ、東京の弘君の住所書いて下さい。
年上の人「本当にイイのね、頂いて」 
私   「もちろんです先日頂いた万年筆のお返しです」

年上の人「弘君きっと喜ぶわ、寮にテレビないの」
年上の人「でも貴方は本当に運の強い方、すごいわ」「でも、その運、私、今日から半分もらうから、イイかしら」 
私   「ハイ、あげます」

その帰り道、年上の人が、ここは寒いから喫茶店行きませんか?」 
私   「ハイ、ついて行きます」


明治町銀天街からのお店はセール真っ盛りで大賑わい。
何処も大入満員。活気あふれる若松の恵比寿祭り。

そして先日入った、レオの喫茶店に入ると、
マスターが「いらっしゃいませ、今日は?」
年上の人「ハイ、オムライスにコーンスープお願いします」と、二つ注文し奥の席に案内された。
この日も満席のようで、やっぱり若い方が多い。 そして、ナイトミュージックも素敵で、落ち着くお店。何より温かいのがイイ。
そう想って左側の方を見たら、中西先輩がいた、女の人とデート中のようで、私のこと気づいてないので知らない事にしている。そして


年上の人「オムライス好き?」
私   「初めて食べるものです」
年上の人「そうなの、今、若い方が美味しいって人気なのよ。実はね、私も初めて」と、コソッと笑う笑顔が可愛いと感じた。

そのオムライスの前に温かいコーンスープがきて、
「温かい内に頂きましょう」とかで スプーンですくって頂く、甘いミルクタップリのスープ。
その中に黄色コーンが少し入り、これが少し口の中に残るのでコーンスープ?。
でも温かくて美味しい。
年上の人は、お食事中は、ほとんど話しはしない。
その分、集中して食べるのだけれど、いつもゆっくり。
年上の人は静かに、ゆったりと食事しながら私のこと見ている感じ。

私は、そんな余裕などなく、向き合って座っているだけで緊張、ドキン、ドキンなのだ。
ただ、それは、私だけが知っている秘密。

その気持ちを分かったのか、優しく私を見つめて「美味しい?」と、聞いてくれる年上の人。

私   「ハイ、温かくて美味しいです」
年上の人「そう、良かった」
続いて出てきた、玉子で包んだオムライス。
となりに赤いケチャップがあり、「これを少し付けて食べるのよ」と年上の人。
大きなスプーンで少しずつ削って食べると、ライスの中に細切れにした人参、カマボコ、ハム、コーン、ピースが色々入り、ボリュームがある。そして、これを一気に食べるとき、又しても
年上の人「ジョーさん、少し取ってくれない、食べきれないの」
私   「ハァー、そんなら少しだけ」とかで皿を出すと、又しても半分ぐらい入れてくれた。
年上の人「ごめんなさいね」
私   「すごく美味しいです」とかで、これもクリア。すると、
年上の人「実はね、東京の弟が、オムライスが美味しかった、と電話があったのね」
年上の人「それで一度、食べてみたかったの」 それで「今日、貴方と食べたと言えるわ」
私   「ハァー」
次にマスターのおごりで、いつものコーヒーが出てきた。マスターが年上の人にウインクして「これはサービス」と聞いたので、多分そんな感じ。いつも通り私のコーヒーにミルク。
そして甘い砂糖を二ハイ入れて
年上の人「グチュグチュしてね」
私   「ハイ」して、温かくて甘いコーヒー。
しかし駄菓子屋、真浄のミルクコーヒーより全々違う味。やっぱりコーヒー豆?。
そう話したかったが、ここで、その話しをしたら笑われる。そう想って口を閉じた。

そんなとき、私の前の席に立つ人、中西先輩だ。
中西先輩「ジョーくんじゃない、この方は?」
スラーッとしてプレイボーイの中西先輩は、私より三つ上の二枚目でカッコイイ青年。
その青年の横に奇麗な女性がいたので、その女性も私を見て「こんばんは」
私   「ハイ、こんばんは」 そして、すぐに年上の人が自己紹介すると
中西先輩、驚いて「あの芳野病院の中野さんて、この方なの?」
年上の人「いつも吉田印刷所様にお世話になっています。事務をしています、中野と申します」。と、先輩に挨拶し、困った私の顔を見て、
年上の人「ジョーさんは私の弟の友達なのです。弟は今、東京にいますが、ときどき若松を案内してもらっています、どうぞよろしくお願いします」とかで、凄く驚いた様子の先輩、そして隣りの女性は、会社の宮本という製本場の女の子だった。
レジで会計し、去った中西先輩に宮本さんという女の子、明日は絶対うわさになると想って少々不安。でも………………



年上の人 「ごめんなさいね、いつも会社の人を驚かせてばかりで本当に、ごめんなさい」と小さく頭を下げてしまった。
私    「僕はシッカリしていますから大丈夫です、それに運が強いので何ともありません」
年上の人 「嬉しい、まだ、まだお付き合いしてね」
年上の人 「そうそうカラーテレビね、東京の弘くんに明日手紙、送るね。貴方からと書いてね」
私    「イヤ、困ります、僕の名前は困ります」
年上の人 「ありがとう、でもね本当の事だもの、今日のこと、シッカリお手紙書いておくからイイでしょう」
私    「アー、ハイ」と、何故か不安がドッサリでてきた。
お店を出て、若松ロータリー前までの道のりは、やっぱり年上の人が私の左腕をシッカリにぎりしめ、温かい左身体半分。

ゆっくり、ゆっくり歩く。歩くのも静か、ときどき冷たい風が私達を包み込んでは逃げ、又、新しい風が私達の熱を奪い去ってゆく。
そしてロータリーの駅に着くと、又しても私が乗るバスが待っていて、
年上の人 「ジョーさん、早く乗って」と言って、背中を押してくれる年上の人。
門司行きの曇り窓ガラスから薄く見える、手を振ってくれる年上の人。その人が小さく見えるまで見送ってくれる奇麗な年上の人。

⑮ 沖縄からのプレゼントとインフルエンザ             昭和463

毎日、毎日の残業が続く忙しい印刷所。今週は三菱化成から大量の日誌が入り、大忙しの活版製版部。そこで仕事をしている私は、通勤しているので残業は夜9時まで。その他の先輩達は10時までの残業。その仕事が月末まで続く。
印刷所は、年度の3月末が最も仕事が多く、企業や行政の年度末の決算日となるので、それ以前に多くの資料を、冊子単位でまとめ、納品する事になる。又、各企業へ入社する新入社員の手続きなどの書類も多く、細かいところまでの作業は神経を使う。
そして試験問題集を作るときは更に大変。


今日は市政の秘書課から8人の検査員が来て、版組みから印刷、製本までの工程を監視されながらの、夜間作業が3日間続く。 私は、その仕事に関わらないが、先輩達がピリピリした態度で、無駄口さえ言えないから、静かに作業している。
その仕事が、ひとまず終えた昼休み、母が作ってくれたアルミの弁当箱には、いつもの玉子焼きに、テンプラとソーセージの煮付け、塩クジラ肉、ミリンボシの焼いたものがシッカリ入り、米と麦が少し入ったご飯が凄く美味しい。
それを頂いて、温かい茶を飲み干していると、後ろから「ジョーさん」と女の人の声。
事務所のマドンナだった。
ニコニコして「お弁当、おいしかった?    「ハァ……」

いつもの事務服は、両サイドにポケットの付いた紺色の長袖。これに紺色のタイトスカート。
気になるミニスカートは最近やめて、ひざ下までのシンプルになってきて、ますますお姉さんになったと想っている。 そのマドンナが「ジョーさん、ちょっとイイかしら」と誘うので、ついて行くと、事務所に入り、応接間の客室に通された。すると、そこに年上の人、中野さんがいた。

年上の人「こんにちは」
私   「ア、こんにちは」と、小さく頭を下げた。
マドンナ「今日はね、院長先生と、お伴で来たそうで、今、社長さんとお話し中で、チョットだけ貴方の顔が見たいので呼んだのよ」それを聞いて、
年上の人「ごめんなさい、そんな事ではありません」と、マドンナを睨みつけた。

年上の二人の女性が、ニラメッコして大笑い。 笑いが止まらない様子。
私は何がおかしいのか、全く分からないが、早く、ここから出たかった。恥ずかしいし、このような場所、そのものが普段入れるべき室ではない、特別室なのだから。その室で私達三人。
「ジョーさん座って、コーヒー入れるから」と、マドンナがコーヒーを入れてくれた。
マドンナ「ジョーさんは、たしかミルクと砂糖だったわね」と、マドンナが勝手に入れた。
おかしい、私の好みを知る訳ないのにと想ったが、まぁイイカーと想いつつ、温かいコーヒーを少しずつ飲む。そして、

年上の人「実わねジョーさん、弟から貴方に贈り物があって、持って来たの、ハイ、これ」と言って、ひも付きの紙袋をくれた。  「頂いてもイイんですか」と私。
「どうぞ弟、弘くんのお返しです」と、年上の人。
すると、マドンナが「中身、知りたい、ジョーさん開けてみて」と言うので、仕方なく、二人の前で、箱から取り出すと、ジョギングシューズが入っていた。高価なもので、私は持ってないもの。
それを見たマドンナ、年上の人を見て、
「それで足のサイズ、私に聞いたのね」
「ハイ、弟から聞かれていたのですがジョーさんに聞く訳もいかず相談したのです。ごめんなさい」
マドンナ 「そういう事だったの、納得しました」とか言って、私は、この二人から、たくさんの事、私の事、調べられている事、気づいた。

「でもイイカァー」それより、こんな白いスニーカー欲しかったから。

年上の人「それでね、ジョーさん、この間、オミクジで一等賞のカラーテレビ、弘くんにプレゼントしたでしょう。そのお返しが良く分からない、とか弘くんが言ったので、私が、「ジョーさんは毎日通勤しているの」と言ったの。
「そしたら靴にしよう」と決まってね、早速、弘くんがね、今、東京で人気のナイキの、お店で購入したのよ。

そのときサイズが分からなくて、池田さんに聞いたら、ジョーさんの健康診断書の中に、足のサイズがあったので教えてもらえた、25.5㎝でしょう」 「ハイ、そうです、合ってます」

マドンナ「ジョーさんは、やっぱり偉いわネェー」と私の顔を見て、ニコッとしてくれた。
それで恥ずかしくなり、二人に少し顔を下げた。
そして、いつの間にか二人の視線が私に注がれるのか、顔が真っ赤になって恥ずかしい。
それで何ゆえか、心臓がドキン、ドキンしてきたので、早々に、この部屋からでた。すると後から「ホラ、顔が赤くなったでしょ、カワイイでしょう」と聞こえた。そして笑い声がした。

3月末、仕事忙しいとき、とうとうインフルエンザにかかり熱が出てきた。そして咳をはじめたので、仕方なく会社の帰り道、年上の人が受付する芳野病院に行った。
このときは違う受付の人がいて、年上の人はいなかった。
それでもインフルエンザの注射と、飲み薬を一週間分もらって帰宅。3日間ほど定時で帰り、週末の金曜日、いつもの若戸大橋、橋台上でバスを待っていると、早足で上がって来た年上の人。
年上の人「良かった、間に合った」とかで「こんにちは」 
私   「あー、ハイ、こんにちは」

年上の人「ジョーさん、風邪、大丈夫なの?
私   「ハイ大丈夫です、会社行けてますから」
年上の人「そう良かった、腕見せて」 腕を見せると、私の手を握って、脈を診てくれる。
年上の人「イイわ、大丈夫、じっとしてね」と、私のデコに手を添えて、熱を測っている様子。
そして、「これ、腕に入れてね」と、体温計を計る。
こんな所で看護師みたいとか想うが、お姉さんと想えばおかしくないし、看護婦さんからされているので、なおさら深く考える必要ないと感じ、そのまま体温計を渡すと、37.6度。
年上の人「少し熱があるみたい。明日、病院に来てくれない」
「ハイ、そうします」ということで、
バスが来て、
年上の人「今度、何処か連れて行ってね」と言い残して、手を振ってくれた年上の人。
わざわざ私の為に来てくれて、凄く、うれしかった。


次の日、今日も忙しい仕事をテキパキこなしていると、
空閑課長が「上瀧、風邪なンか」

私   「夕方、芳野病院に行く事になっています」「そうか、それなら定時やな。日曜日、家で寝とけヤァー」と言われ、私だけ、この日は定時で終了した。
そして、なぜか、そわそわの夕方。
タイムカードを押していると、
柚木専務が「ジョーさん、定時か」 「ハイ、そうです」

「お前の課はみんな残業しとるゾ」と、柚木専務。
すると、電話番のマドンナが「上瀧さんは風邪ひいて、今から芳野病院に行く日なのです」

柚木専務「そうなのか、それなら明日はゆっくり寝とけよ」「来週は、もっと忙しくなるけ、お疲れさん」と言ってくれた。
マドンナが私の予定を全部知っている?と想ったが、そんな事よりは、年上の人がいる芳野病院で、顔が見られると、想うだけでも、ドキン、ドキンする、オレって変?

歩いて本町までの病院は15分ぐらい。病院の大きなガラス戸を開けると、10人ほどの患者がいて、静かに順番を待っているところで、受付にカードを渡すと、
「いらっしゃい、上瀧さん」と、かしこまった受付が、年上の人だった。
ニコニコして、優しい瞳で私を見てくれる。
30分ほどの順番待ち。控室は温かくて、まだ暖房が入り、咳をコホン、コホンと続ける人。足にケガをした人。色々。
その中で静かにしながら、テキパキ事務をしている年上の人を、遠くから目で追う私。
ときどき、チラッと私を見てくれて、ニコッと笑ってくれる笑顔があり、すぐに下を向いてしまう悪いクセの私。
ドキン、ドキンの音が、静かな場所では余計に聞こえる。もちろん、私の身体の中なので他人は分からない。
そして年上の人の声だけ耳に入り、うっとり幸せ感が漂っていると、

看護師が 「上瀧さーん」の声で、ハッと、いつもの私に戻り、

すぐに院長さんが「ハイ、口を開けて、アー」声を出して、熱は36.5度。 そして、少しノドが赤くなっているので、もう一週間分の薬を出しますので多分、大丈夫。「もし、何かあったら来て下さい。若いから、すぐに治りますよ」とかで診察が終わった。 その後、会計のとき、
年上の人が「ジョーさん、どうでした?」「ハイ、大丈夫でした」 
年上の人「そうなの、良かった」

年上の人「これ、私のお手紙、後で見てね、返事下さいね」と、薬袋と、小さく折りたたんだ手紙をもらって病院を出た。その手紙を歩きながら読むと、

「上瀧さま、いつでもイイのですが、若松の海、洞海湾しか知りません。青い海、渚があると聞いています。ぜひ、ご案内下さい。早くインフルエンザが治りますように。草々。 中野まゆみ 

手紙を読んで、ルンルン気分の私。今日は、まっすぐ家に帰り、日曜日は寝て過ごした。
次の週、二階の活版製版課に行き、いつも通り宮村課長が10枚の原稿用紙をくれ、組版が始まった。10枚の原稿が終わったら、定時でイイとの事だったが、それは無理。
プレッシャーをかけているのが、すぐ分かった。

それで隣りの内田さんが、又、イヤミな仕事をくれたなぁ~と、宮村課長を批判する。

そして、すぐに解版の女の子が来て「ジョーさん、お久しぶりー」とか言って、早速、私の仕事の準備をしてくれる。コミをたくさん入れて整理し、ついでに欄、ケイなどを、たくさん棚に入れ、仕事のしやすい環境を作ってくれる。


これも宮村課長の指示で、仕事がしやすい、集中して出来るよう、快適な下準備を若い女の子がサポートしてくれる。この事で1.5倍くらい仕事が早くできる。
さすが宮村課長、気配りのある人と、いつも私は尊敬しているし、課長と仕事をすると、効率というより、イイ仕事が出来ると想っているから、絶対イヤミな人とは想ってない。


それで、私より下の女の子が、いつもチョッカイをかけてくる。
あふれるぐらい山盛り「コミ」を入れてくれると、その山が壊れ、他のケースにコミが入り、混じってしまう。仕方のないことだが、上手に、「コミ」を取り切らない私が悪い

その様子を見ていた内田さんが、「入れすぎるから、こんなことになる」とは言うが、せからしいので、文句があっても、ただ黙って、もくもくと仕事をする私。

それでも、私の肩をつついて、足元に「コミ」が落ちている!! と文句を言う女の子。

これは私のせいではない。自分達が上手にケースに入れてなくて落としたもの。と、想っているから知らない。
それを私のせいにして「ジョーさん」と言って、ニラメッコする。
偉そうに、私より二つも下なのに、とか想っても、黙って仕事するのが私の仕事スタイル。 職場では、ほとんど女の子とコミュニケーションはしない。特別な場合だけ、そう想っている私。
それで、その事を良く知っている内田さんは、私のこと、女ギライと決めつけているのだ。

他の職人さんは、みんな若い女の子と、チヤホヤ話したがるのだが、それを作業時間中にヤルと、宮村課長は極端にイヤがる。その事を早くから知っているので、よけいに女の子とは無駄話しはしない。コミュニケーションしない、ことに決めている。
昼までに原稿用紙6枚の組版ができ、早速、校正刷りする女の子達。
宮村課長が来て、残り3枚とかを見て 「上瀧、ガンバッてるやないかァー」   「ハイ」
「若いヤツは、こうでないとイカン」とか言いながら、エッヘンして事務所に行った。

しばらくして、社長が各職場を回覧してまわる、昼からの職場、私が活版植字をしていると、
社長  「上瀧くん、今日はここか」   「ハイ、今日から一週間ここです」
社長  「そうか、君は何でもできるからイイ」
社長  「この間は、配達の営業もしてくれたと、工場長の有門くんが言っていた」「ハイ…」と、
返事しながらも手が動いている私。それで、 私はまだ、社長の顔を見てない。
最後に、隣りにいる内田さんに社長が、「上瀧くんの面倒頼むよ」
内田さん「ハイ、仕事のできる若者です」と言ってくれて、凄く嬉しかった。

夕方までに手持ちの原稿10枚全部終えたら、早速、宮村主任が来て「残業できるか」
「ハイ、できます」 「それなら明日の分も含めて12枚、簡単なものだが、ミスなく作業してくれ」という事で、今日は、皆が終わる午後8時まで残業した。

帰りのタイムカードを押すとき、事務所の奥から社長が私を見つけ、

「上瀧くん、お疲れー」と大きな声。
頭を下げて、会社の外に出ると、やっと日が沈んだ3月末の日暮れだった。
涼しい風を感じながら、ゆっくり歩く、いつもの駄菓子屋、真浄の前を通ると、いつものお母さんが「お疲れさまー」そばにいたカワイイ女の子は三女の美和ちゃんが、バイバイしてくれる、目の大きな女の子。 そして、いつもの橋台上のバス停に行くが、誰もいない、ガッカリ感。
年上の人がいたら、嬉しいなァが、失望。
すぐに門司、田ノ浦行きのバスに乗り、小倉駅前で降り、乗りかえの田川行きのバスで片野で下車し、帰宅するパターンが一週間続いた。

そして4月に入った。

⑯ 年上の人と、若松ひびき灘の磯遊び             昭和46年4月 

高塔山は桜が満開で、白とピンク色で染まり、今週の日曜日は、活版、平版機械課合同の花見会が高塔山である。私は酒が飲めないので辞退した。
そんな日の早朝、いつもの石橋のおばあちゃん室に行くと、甘い小城羊羹を切ってくれた。

小豆色した茶色と、お茶色のグリーンの二種で、これがすごーく美味しい。しかし苦いお茶。
これは、石橋のおじいちゃん、おばあちゃんが、連休日を利用して、京都の観光で買った宇治茶とかで、みんな高級品。これなどで、私を、もてなしてくれるのは特別、とは想ってなかった。

すぐに、マドンナ池田さんが来て「オハヨウ」と、私の背中をつつく、いつものクセ。
大きなヤカンの、お湯が沸くまで、室で私と同じ羊羹に宇治茶を飲み、おしゃべりが始まると、すぐにコタツに入っているマドンナが「ジョーさん、チョットこっちに来て、話しがあるの」
私   「ここでイイです」
マドンナ「イイじゃない、お姉さんですよ」
私   「イエ、縁側でイイです」 
6~7m開いた私達だったが、マドンナが来て、「昨日ね、芳野病院に行ったの、そしたらね、中野さんが、ジョーさんの返事待ってるの、と、聞いたの、返事は?
「アーハイ、OKです」
で、何時、とマドンナ、
私   「4月4日の日曜日」

マドンナ「たしか4月4日は機械場の花見じゃないの、貴方、行かないの」
私   「ハイ、酒が飲めないし、あまり好きじゃない」
マドンナ「そうなのね、それでね」 「分かったわ、で、場所と時間」 
私   「そこまでですか」
  「でないと貴方、中野さんに言えるの」
私   「あ、ハァー」  「私が電話してあげるから言いなさい」
私   「ハイ、4日の午前8時、若松ロータリーです」

「分かりました、彼女に伝えます」とマドンナ。
ニコニコして「イイナァー、今日は顔が赤くならないの」 そう言われると急に顔が赤くなってきて、恥ずかしい。私のプライベートを全部、マドンナは知っているし、でも恥ずかしい。
そう想うと、よけいに顔が赤くなって逃げた。


4月4日、日曜日の午前8時前、バスが着いて降りると、そこに年上の人が待っていた。
「おはよう、ジョーさん」と年上の人。 「ア、ハイ、おはようございます」
年上の人「風邪ひきさん、逃げたかしら?
    「ハイ、すっかり良くなって、残業しています」と私。
年上の人「そうなの、男の人は仕事が一番ね」
 「あ、ハァー…」
年上の人「今日は無理言ってごめんなさい。でも、一週間前から楽しみにしていたの、貴方が案内してくれる海」 
私   「ハイ、脇田行きのバスに乗ったら、すぐ前が海なのです」すると、すぐに脇田行きのバスが来て、乗車する。

今日の年上の人のファッションは、淡いピンク色の長袖のカッターシャツに、白いセーターを着て、紺色のスラックスに、白いスニーカーで清楚なスタイルをカモフラージュさせるのは、やはり長い髪を二つに分け、小さくまとめたものを白いリボンで止め、学生ぽい女の子に変身していた。
私は、いつも通りの白い長袖カッターシャツにGパンと簡素。背中に小さなナップサックを付けているのだが、中身は秘密。

日曜日の朝は人が少なく、ゆったり乗れる。まばらなに人が乗っているが、私達は中ほどに座る。私が先に座ったので、年上の人が私の横に座り、年上の人の身体の半分が私に近づき、何か不思議にドキン、ドキンが始まる。
バスが商店街通りから大井戸町のコースに入る前、大きく左カーブを切るので、年上の人の身体が私の左半分に寄り添うので、温かさが伝わっくると、更に心臓がドキン、ドキンとなる。
多分、私は恥ずかしく、顔が赤くなっていると感じた。
でも、その心地良さを求めているのも事実で、凄く嬉しい気分になる。


そして正面から見える視界が、若松高校前を過ぎると、小石、ひびき灘の海が見え、今日の天気は清々しい晴。遠くまで海が広がり、やっぱり、ひびき灘の海は広くて青い。その海を見て、
年上の人「素敵ィー」 「奇麗―ィ」と、小さい声を聞いた。

乗車する人は、ほとんどなく、すぐに、海そばの小石バス停で降りた。
そばの海は、遠浅の浜辺で、ゴロタ浜が続くのだが、今日は大潮で、今が満潮から下げ潮に入っているので、潮干狩りをしている人は少なく、干潮を待っている人は、その海岸で磯遊びをしている。

その左側は脇ノ浦港に脇田海水浴場に繋がる。その先が私達が良く釣りに行く岩屋の海。
そして右側は洞海湾の海があり、いずれ埋立てられる海は、沖側に無数の捨て石の波止が続き、通称、陣地と呼ばれる私達の釣り場でもある。

今、私達が、海岸通りを歩いているのはバス道路で、今は満潮から下げの時間帯、昼過ぎると潮干狩りが出来る。
その渚には、子供連れのファミリーが15組ほど磯遊びをしている。

その中で海岸道路をゆっくり、脇ノ浦方面に歩く私達。少し先には小石観音という神社があるので、その辺までを考えている私。本当はサーフでシロキス釣りが出来るのだが、今日は、そのような遊びは一切なし。ただの散歩と、できたら磯遊びをしたい気分でいる。

年上の人がリードする歩みで、ゆったり海辺の景観を楽しむ年上の人。
沖縄とは全く、違った海を見ていると想う私。
サンゴや白い砂浜がない海が続くので、沖縄のように海がスカイブルーでないことも事実。
若松響灘海岸は藻場が多く、岩礁とか大小の石が多い、これにノリや海藻がギッシリ付いているので、全体が薄茶色の海岸、渚が続く海。しかし、その海でも空はスカイブルーに広がり雲がない。
後方から入ってくる南西風に押され、遠景の島が凄く良く見える。そんな景観を見て、

年上の人「ジョーさん、あの島は?
指さす方向で「大小ある小さな島は白島といって、左が男島。右が女島です」
年上の人「左の平たい島は? 「ハイ、藍ノ島といって、小倉から定期船で行ける島です」
年上の人「高塔山から見た島で、確か貴方は魚釣りで良く通った、と言ってましたね?
「ハイ、釣りで白キスとかタイが良く釣れます」
年上の人「その右側にある島は」 「馬島と言って、さっきの定期船が、まずここに来て、それから藍ノ島と、巡回していくので、一日、三往復ぐらいしてます」
年上の人「詳しいのね。私も、あの島で魚釣りしてみたいわ」 「ハイ、今度できます」

年上の人「無理しなくてイイの。私、今、海に来ているでしょう、洞海湾の海と全然違うわ、奇麗でしょう。大きな石に緑色のワカメがたくさん付いている。沖縄の海では珍しいのよ、石にワカメが付いているなんて」 「ハイ、そうですか」
年上の人「ホラ、その石にカニさんに、巻き貝がたくさん遊んでいます。楽しそうです」
私   「ア、そうですね」
年上の人「あの石に巻き貝、その上にオンブされた貝。あっちの貝は三つも重なり合ってカワイイ、でも遠くてよく見えない」
年上の人「ジョーさん、磯場に降りること、出来ないかしら?
私   「この辺は海に降りる階段がないのです。しかもバス通り下の海辺までの高さが7m以上あり、簡単に降りることができないのです」それで、

私   「もう少し先に排水土管があるので、そこから降りますけど行ってみましょうか」行くと
年上の人「アラ、けっこう高い。私大丈夫かしら?
私   「みんな、ここから降りていますから大丈夫です。私が先に降りますから、付いて来て下さい」ガードレールを、またごした私だが年上の人は、その下をスルリとかわし、お上品が際立つ。 そして、ブロックのカベ下が4mほどあり、その真ん中に排水土管。
その上に乗って、下に降りるのだが、排水管の水は、山から出ている水で少量。
まずは私が大きな土管の上に立ち、年上の人の手を取る。

大きな土管の上に二人立ち、今度は先に私が下に降りる。本当はジャンプしても良い高さだが、ここは降りる要領を教える為、私がお手本を見せるつもりで、ゆっくりと、下に降りて見せた。

そして彼女の番。まずは左足が乗せられるブロックに左足、そして右足のブロックのつなぎ目に、右足で、ゆっくり、バランスを取りながら、次のブロックに足を乗せながら降りて行く。

下ばかり気にしている年上の人は、手につかむものがなくて、バランスを崩したので、慌てて、年上の人の背中を押して、最後の着地成功。
すぐに、

年上の人「怖かったわ、ありがとう」

私   「上手降りれて、良かったです」と答え、
すぐ前に広がる石コロばかりの海岸線、しかし、潮が少しずつ引いてくると茶褐色した海辺、渚が、ドンドン広がってくる響灘の海。
最初はスニーカーが海水につかない磯場だけを寄って、ゆっくり、ゆっくり、見てまわる。
その中の一つの窪みに、大きな赤いカニを発見。

カニさんが、年上の人を見ているようで、ニラメッコ。そして年上の人が指を差し出して、コンニチワ、して、カニさんがブクブク泡を出し、石と石の隙間に入って行った。
そのそばに、ニイナの親子が、イヤ、三つも、四つも、コッチもと、探しまわる年上の人。


後姿を追う私には、愛らしい妹のようにも写り、こんな感じも写し出せ、凄く嬉しい。
だいぶ潮が引いてきた大潮の、この日。たくさんのファミリーが磯に入り、磯遊び。
あっちこっちで赤いアミ袋を持つ子供達が、ビイナや貝、カニ、ときどきサザエが取れた、と、大喜びの子供がいて、賑わい始めるころ、太陽が私達の影を作り出し、温かい。
そして、優しい潮風が涼しい。
年上の人も、潮が引いた渚で、もっともっと沖にトンビ、トンビ跳ねて行く。
不安定の岩場で、ノリがあり、滑りやすいので、ときどき手を取ってやり、少しズルーッと滑って、「キャー」は、年上の人。 でも、私の腕をつかまえて、大丈夫。

大きな磯の窪みの深みに、多分、ビイナの大きいヤツを探し出す私。一つ、二つ、三つを、持って来たアミネットに入れながら、15個。
年上の人が「大きい。沖縄の磯でも、こんな大きいの、いないのよ」
そして、もっと岩の奥を探ると、あった。強くくっ付いているものを、小さな鉄の棒でコズクと、ポロンと取れたアワビは、子供のこぶしほどのサイズだ。
それを年上の人に見せると「スゴーイ」
「こんな近くの海でアワビがいるなんて信じられない」とかで、年上の人もカッターシャツを腕まくりして、一つ、二つ、ニイナを取り、私が持つアミネットにコソっと入れる。
そして水の中に浸かっている大きなニイナは、まさかのサザエ。「これは凄―ィ」と大喜び。
私も、もう一つ、アワビを追加していると、

「オー、ジョーさんじゃないか」と、遠くから藤崎さんが私達を見つけてくれた。
二階の活字鋳造している、釣りキチの藤崎さんファミリーは、奥様と三人の子供さんがいた。
奥様が「いつも主人がお世話になります」と、私に挨拶してくれるが、まだ21才の私。
それよりも、私の隣りで遊んでいる年上の人が気になっている様子を感じていると、すぐに年上の人が「芳野病院で事務をしている中野と申します。
上瀧さんは、私の弟、弘くんのお友達で、今日は、ここで遊んでいます」


藤崎さん「吉田印刷所に勤める藤崎と申します。いつも芳野病院の仕事をさせて頂いています」と言って、藤崎さんの奥様が「私も主人と結婚する前、看護婦だったのですよ。でも、貴方奇麗な方ね、何処の方?
年上の人「私、沖縄の名護市から、縁あって芳野病院にお世話になっています、どうぞよろしく」
藤崎さんの奥様「主人もね、釣りキチで、いつもジョーさんと釣りに行くのですよ!!
「そうですか」と、年上の人。
そんなとき息子の慶治くんが「兄ちゃんのところにビイナがたくさんあるゾ」とかで、一緒にビイナ取りが始まった。
その中に年上の人が入り、二才の、さゆりちゃん、四才の美奈ちゃん、ファミリーの中に、年上の人も入り、今日はなぜかしら、このファミリーの中にとけ込んでいた私達。
それで、年上の人は、すごく幸福そうで良かった。


昼過ぎ、「ジョーさん、一緒にオニギリどう」と藤崎さん。「イエ、僕はありますから」
すると年上の人が「ご一緒にお昼してもイイですか」と尋ねてくれ、
奥様が 「賑やかしいですけど、ご一緒しましょう」と、
大きな石のそばで一緒に弁当を広げる藤崎さん。
すると、この日の為に準備した、年上の人が「ジョーさん、ハイどうぞ」と、たくさんのサンドイッチを作ってくれていた。

私もパンは準備していたが、ナップサックから出さず、美味しそうなハム入りのサンドイッチを頂く。小さな水筒から、温かいコーヒーを頂いていると、すぐに藤崎さんの子供達がやって来て、美味しそうなサンドイッチを見て、 すぐに年上の人が「ハイ、どうぞ」と差し出すと、すぐにパクンと「おいしい」子供達三人とも、手に持つサンドイッチ。
それを見た奥様が「すいません、私達のオニギリも食べて下さい」と、4つも頂けた。
結局、2つしか食べられなかったが、オニギリ3つ。年上の人は相変わらず少しで、1つだけ。
それでも、藤崎さんファミリーの中に入り、すごーく楽しそうで、笑いが二度も、三度もあって、良かった。そして、大きく潮が引き、とうとう私のアミネットに100コぐらいのサザエ、アワビ、ビイナが入れられたので、これをナイロン袋に入れ、私のリュックに入れた。

そして潮が満ちてくるのも早い。 私達は早めに階段がある、遊歩道に戻り、若松駅行きのバスに乗ると、みんな磯遊びとか、海辺で遊んだファミリーでイッパイ。
座る事はできなかったが、隣りで手すりを握る年上の人が、もう一方の手で私の右腕を握り、離れないようにしている、シッカリと。
そして若松ロータリーで降りた私達だったが、
「今日は楽しかったです」と、私が言ったので、 年上の人は、それ以上は誘ってくれなかった。

それで、背中に担いでいたナップサックから、先ほど取れた磯の贈り物を、そのまま年上の人にプレゼントした。 「寮の皆さんで食べて下さい」と一言。
年上の人「ジョーさん、イイのですか」 「ハイ、私はいつも魚釣りのとき取っていますから」 
年上の人「そうなの、寮のみんな喜ぶわ」

私   「良かったです、そして楽しかったです」

年上の人「会社の藤崎さんにも、よろしく言って下さいね」 「ハイ、明日、言います」
そしてすぐに小倉行きのバスが私達の前に止まり、年上の人が胸を押してくれて、バスに乗った。見えなくなるまで手を振ってくれた年上の人だった。

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       マイ ファミリー 第二巻 続編 3
   小説  年上の人

作者・編集・発行人 大和三郎丸 (上瀧勇哲)