マイ・ファミリー 第二巻 年上の人 続編 2
「年上の人」 続編2 はじめに 作者の私 上瀧勇哲の紹介
私の名前は上瀧勇哲、九州北部にある百万都市、北九州市小倉守恒で生まれ、三郎丸で育った。
その上瀧名は(じょうたき)と読むのだが、佐賀県佐賀市から続く大和町、小城市に多く、地名では、ありふれた名として現存する。その読み名は、カミタキ、ウエタキ、コウタキ他、色々な読み名は他にも多くあるがベースは同じ。
その、私のルーツを探しを、昭和の時代から平成の初期に始めたが、私の先祖は小城市。
母方の牛島家は佐賀市から始まる武家と商人で集合され、県外の福岡県を、またいだ筑前から東京まであるが、直接のご本家は佐賀県神崎にある。この辺のところは本誌で何度も紹介しているのだが、ホームページを開くと詳しく紹介している。
さて今度は、高専から勤め始めた会社が北九州市若松区の吉田印刷KKという事で、その街で出会えた、お姉さんのような「年上の人」を紹介している。
学生から社会人になったばかりの若者(私)は、公害都市、北九州市若松の、ド真ん中の会社で、たくさんの先輩、師匠、釣り仲間を多く作ったが、それは男性ばかり。20才になったばかりの私が、始めて女性に興味を抱いたのが年上の人、中野まゆみさんだった。女ギライで無口な私を、なぜかしら女性のハートを知るキッカケになった方は、沖縄から来た素敵な年上の人だった。
そのストーリーを第一部で紹介しながら、その続編として16Pで紹介します。最終稿は更に40Pほどになりますが、小説マイファミリー、第一巻は竜神伝説と初恋。16Pで紹介しました。
この小説も私が生まれた小倉守恒を舞台にした幼い頃の出来事を書いた伝記です。
そして今度は第二巻「年上の人」続編となりますが、全てが私の過去の記録として残しておきたかった内容で、本当は本にしたかった。しかし、今更という気持ちで、私が発行している本誌に少しずつ紹介する事で、私の社会論と実体験記録を皆さんに読んでほしいのです。
尚、「年上の人」は平成3年に書き上げたものを、2022.1に再校し、紹介しています。
その上で、私の人生の歩みは、ここから始まるのですが、正しく生きることは非常に辛い想いをする。身体も、精神も、ボロボロになりながらも、それを理解してくれる先輩、師匠、釣り仲間、そして女性という女心を始めて知った「年上の人」中野まゆみさんをテーマにしながら、勤めている会社の人々のライフと、北九州市の観光PRも含め、お付き合いのある多くの人々が本誌を手にしてくれたら幸福になれる私です。
前号までの、あらすじは
登場人物
◎私、上瀧勇哲が、初めて会社に勤め始めた昭和43年~46年までのストーリー。通勤から始まった会社の出来事、職場の上司に先輩、若松の町並み、景観、その中で出会った人々とのコミュニケーション。そして私の心を躍らせた一人の女性。その結末を紹介するドラマ。
◎中野まゆみ 年上の人・主人公
中野 弘 中野まゆみ、弟、大学生
◎池田さゆり 吉田印刷所の事務員(マドンナ)
◎石橋のおじいちゃん 吉田印刷所の管理人
◎石橋のおばあちゃん (空閑課長の義祖母)
◎芳野病院の院長
◎その院長夫人
◎真浄幸子 会社近くの駄菓子屋の女将
真浄の姉妹、長女洋子、次女真美、三女美香
◎吉田印刷所の社員
空閑敏明 平版印刷機械課の課長
萩原金安 大先輩
中西悦二 三階、平版製版の先輩
有門 博 工場長
宮村博敏 二階、活版製版課の課長
吉田正人 社長
柚木洋一 専務
「年上の人」 前編ストリー
①序奏。 昭和43年の早春、私の家から吉田印刷所に勤める。 19才の私
②通勤が始まる日。
北九州市小倉三萩野から通勤が始まり、通勤途中で出会う人々、
そして吉田印刷所の工場とは 昭和43年~45年
③年上の人。若戸大橋橋台上で、出会う年上の人。寂しそうな、
その人を想う心が、更に増してゆくとき 昭和45年、冬~4月
④初夏の想い出、若戸大橋橋台バス停の出会いから、
小倉井筒屋デパートに、買い物に誘われて 昭和45年、初夏
⑤事務所のマドンナ、池田さんの冷やかし、印刷物を芳野病院に届けたとき、
受付の、年上の人、中野さんとの出会い 昭和45年5月
⑥若松明治町銀天街で年上の人から声をかけられ赤提灯で食事に誘われた。昭和45年6月
⑦二度目のデートは映画と丸柏デパートのハンバーグ定食 昭和45年6月
⑧若松橋台上で出会った年上の人と小倉魚町銀天街と小倉城公園のデート 昭和45年6月末
マイファミリー「年上の人」2
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⑨ 年上の人と四度目のデートは小倉祇園祭と、小倉城 昭和45年7月18日
7月に入った通勤の帰り道、小倉に入ると一気に小倉夏祭りの景観が見えてきだした。
7月の第三日曜日の週末は、祭り競演会があり、毎年、何処の山車が一番か、二番かの審査会場が小倉城である。
その為、各町内から選りすぐりの若衆が、太鼓技術はもちろん、山車の飾りとかチームプレーを磨く為、一ヶ月ほど前から熱のこもった練習期間があり、今の時期はとにかく勇ましい太鼓がアッチこっちから聞こえてくる。
私も昔は片野町の山車を引き、少しだけ太鼓打ちしたがトップ集団に入れる分けもなく、子供時代が終わったのだが、それでも、祭り気分を味わうだけでも十分楽しめた小倉の祭りだ。
そんなある日、会社帰り道、小倉片野市場で、久しぶりに「都マンジュウ」を買い、その内の二つを、石橋のじいちゃん、ばあちゃんに一個ずつプレゼントした。
すると、ばあちゃんが「こんな年よりに、こげん大きなマンジュウ貰ろて、私しゃ感激しとる」とかで嬉しそうだった。
そんなとき、マドンナ池田さんが来て「何喜んでいるの」
すると、石橋のばあちゃんが「ジョーさんから」こんな大きなマンジュウを、もろうた、と見せて自慢する。
マドンナが大きな目で私をジーィと、睨みつけて 「私のは?」
私 「アー、ありません、ごめんなさい」すると
マドンナ「いつもアメ玉もらってるでしょ」
私 「ハイ」
マドンナ「ときどきは若い女性に贈りものするのょ」
私、 もう一度 「すいません」
マドンナ「返事だけではダメなの」
私 「ハイ」
マドンナ「私に何かプレゼントしてね、芳野病院の中野さんのようにね」
私 「エーッ、知っているん、ですか」
マドンナ「ジョーさんのしている事、何でも知っているのよ」
私 「アー、すいません」
マドンナ「アラ、顔を赤くして、嬉しいの?」
私 「イヤ、プレゼントした事が恥ずかしくて…」
マドンナ「その恥ずかしいプレゼント、期待してます、ジョーさん」とか言って、
人差し指で私の胸を二回も突いてくれる。
マドンナ「そうそうジョーさん、中野さんがね今度は小倉祇園祭りに連れてって、
と言ってました」
私 「エーッ、そうなんですか」
マドンナ「イイわねェ、あんな美人と、いつもデートして」
私 「アー…………」
もう恥ずかしさが最高頂になって、その場から逃げた。多分、今ごろ石橋さんに、私が今していること色々、みんな話していると想った。
その日は午後9時までの残業で、平版機械場でA全の印刷機械をサポート。
大きなA全判の紙を200枚、300枚単位で5千枚ほど機械に積み、一枚、一枚、印刷して出来上がるA全の両面印刷機は、「北九州市政だより」で、月二回、35万部印刷するので二日間かかる。
この仕事が入ると残業、もしくは二交代になるが、夏場はカラーチラシが少ないので、週の三~四日は仕事が定時で終わる。
しかし、今日は久しぶりの残業でハラをくくっていると、定時で終えた事務所のマドンナ池田さんがやって来て
マドンナ「ジョーさん、言うの忘れていたんだけど、18日の土曜日、小倉祇園祭り、
芳野病院の中野さんが貴方とデート言ったよね、返事は?」
私 「エーッ、仕事かも分からないので言えません」
マドンナ「仕事の方は柚木専務に、私が言って上げるから、土曜日は定時です」
私 「本当ですか」
マドンナ「そうよ、柚木専務も中野さんと、ときどき話している仲なのよ」
困っている私を見て、マドンナが「OKね、ジャ、そのこと明日、中野さんに会ったら言いますね」ということで早々に行ってしまった。
その後ろ姿を見て、今日は薄いピンク色のブラウスに白いミニスカートで、ロングヘア―は、カールしていて、凄くオシャレしている池田のお姉さんを見て、やっぱり奇麗と想った。
その後、汗ビッショリかいて仕事をしていると、
柚木専務が来て「いつものように事務所にコーヒーや紅茶などあるけ、飲んどけ」と、紙袋を私にくれた。中には会社の頂き物をバラして、色んな高級菓子が入っており、若者に食べてほしいと、社長や専務の心遣いがこもっている事を感じた。
すると、いきなり柚木専務が、
柚木専務「ジョーさんは、芳野病院の中野さんと、どんな関係?」
私 「エーッ、何でそんなこと聞くのですか?」
柚木専務「お前知らんのかァー、病院でも、会社でも、みんな知っているゾ」
私は顔が真っ赤になって恥ずかしい。
汗をかいている上に、その上の大汗をかいた感じで、専務の顔を見られない雰囲気で、仕事に没頭する事に決めた。そんな私を見て、
柚木専務「ジョーさんの彼女じゃチョット無理だし」「ジョーさんは、もっと若い女の子でエエ」とか、何とか、自分勝手に解釈しながら、機械場の空閑課長と仕事の話し。
その間、専務の言葉が頭にこびりついて 「会社の、病院の、うわさ?」
でも私は、お姉さんと想っているからイイかァーとか、いつも、中野のお姉さんから誘われているし、東京の弘くんと同じように、付きあってくれている事が嬉しい。
そんな楽しい不安を考えながら仕事がドンドン進み9時の残業が30分早まり仕事が終わった。
7月18日、土曜日、出勤して今週は三階、製版課で仕事をしている私。いつものパターンでギャーァ、ギャーァわめきながらの、賑やかしい職場の中で、突然、渡辺課長が来て、
渡辺課長「ジョーさんは今日、定時とか専務から聞いたのだが、イエス?」
私 「アー、そうです、イエスです」すると
中西先輩「何でジョーさんだけ定時と決めるン」
渡辺課長「オレは知らんョ。専務から言われた事、ジョーさんに聞いただけ」
矢島先輩「オレ達、今日は10時まで残業言いよったネー、迫さん」
迫さん 「若い者を特別扱いしている、こんど皆で抗議しよう」
永谷 「ジョーさん、コネつかったなァー」
私 「エー、違います」
永谷 「そんなら定時に帰って、魚釣りかァー」
私 「イヤ、釣りはありません」
中西先輩「そんなら、どうして定時?、ジョーさん?」
黙っていると、渡辺課長が、間を入れてくれて「プライベートの事、聞くまい、聞くまい。みんな仕事、仕事」で、この場は納まり、定時のタイムカードが押せた。
その中に若い女の子がたくさんいて「さようなら」と、声掛けしてくれる、と、早速、事務所からマドンナがやって来て
マドンナ「ジョーさん、シッカリ案内するのよ、楽しんできなさい、明日はお休みでしょう」と、
こちらの年上の人からも、姉さん見たいに言われて、チョット嬉しい。
夏の事務員服は、白いブラウスに紺色のタイトスカート。スタイルがいいマドンナは、やっぱり人気者だし、あっちこっちから声がかかるほど、やっぱり美人。
会社の事務服も良く似合うし、私にだけ特別に声をかけてくれる事が、また、すごく嬉しい。
それで、今日の祇園祭で、池田のお姉さんに、何か買おうと想っている。
会社を出て、すぐ左折すれば、正面に若戸大橋がそびえ立ち、500mほど歩くと、すぐが、エレベーターがある橋台。
その前に若松魚市場、その向いが、いつも立ち寄る駄菓子屋、真浄。
そのお店に、会社帰りの女の子が6人、まとまってペチャクチャおしゃべり中。
それで今日は真っ直ぐ通り抜けようとしたら、
その中の、中村という女の子が「サヨナラ、ジョーさん」
私 「アー、さようなら」
もう一人の女の子が「まっすぐ家に帰るんョ」
私も手を振ってやり、バイバイして、うるさい。10代の女の子を、早く交わして橋台前に着くと、いつもの年上の人、中野さんが下で待っていてくれた。
年上の人「ジョーさん、こんにちは」とかの挨拶から始まって、ゆったりした口調で
年上の人「ごめんなさいね、わがまま言って」
年上の人「用事はなかったの?」とか言いながら、私の顔をマジマジ見つめてくれる年上の人。
私 「ハァー、帰り道ですから」
年上の人「本当にごめんなさい、この間、小倉の街、案内してくれたでしょう」
そのお話しをね、池田のお姉さんに話したら、「貴方は真面目で、社長さんや専務さんから凄く可愛がられて、お坊ちゃま、とか言ってたのね」
年上の人「本当なの?」
私 「イエ、学校から会社に入ったばかりで何も知らないのです」
年上の人「そんなことないわ、貴方はシッカリしているもの」
年上の人「それに貴方を見ていると弟のように感じるの」
私 「ありがとう」 しばらく、その場でお話ししてから
年上の人「近くに若松渡し場があるでしょう、その渡船が戸畑に行くそうなのだけど、
そこから小倉に行けるかしら」
私 「ハイ、小倉行きのバスがたくさんあります」
年上の人「もし良かったら、その渡船に乗ってみたいの、イイかしら」
私 「ハイ、5分も歩いたら渡し場ですから」
年上の人「じゃ連れて行って」とかで歩きはじめた私達。
今日の年上の人のファッションは、沖縄のハイビスカスをデザインした優しい感じのブラウス。その上に薄いカーデガンを着て、白いフレアーのついた、膝上ぐらいのミニスカート。
160㎝ぐらいでスタイルが良いので、年上の人が歩いていると、みんな年上の人をジローッと見る。その横に学生風の私が寄り添っているので、多分、誰が見ても姉弟と想えるはず。
そんな二人が渡船場に着き、年上の人が私の分の10円を入れてくれて、ジリン、ジリ―ンのベルが鳴り、すぐに渡船が出船。
土曜日の夕方は仕事帰りの工員が多く、脂汗をかいた作業着姿の男性が多い、その中で年上の人が、なぜか一際、輝いて見えるようで、注目されている。そんなとき、大きく舵を切った渡船がグラッと揺れ、年上の人が私の肩に温かいほど触れて、一瞬ドキン。
洞海湾を横切って走る、若戸渡船は、大型タンカーの、すぐ後ろから廻り込み、若戸大橋戸畑側、橋台を大きくUタウンし、桟橋に到着。
そして、大勢の客が一斉に降りて行き、私達は最後の方で降りた。
すると、待っているかのように西鉄バス、小倉行きが目の前に止まり、大勢の人々が乗り込む。
戸畑、幸町経由、中原、小倉高校前、大門、魚町と案内板を見たので、すぐに乗車。
前の方は、たくさんだったので、私達は後部の方へ行くと、ちょうど二人席があったので、今日は年上の人を窓際に座ってもらうようお願いした。
年上の人「貴方、優しいのね」
私 「イェ、窓際の方が景色が見えるので」
年上の人「貴方は毎日、バスから景色を楽しんでいるから、少し教えてネ」
私 「ハイ、聞いて下さい」
そのままバスは幸町に入ると、ここはバスや電車がたくさん入り混じり、八幡方面が混雑している様子。しかし、そこを抜けると、後は真っ直ぐ直進すれば、いつものように小倉に行ける。
途中の小倉高校前で止まると、今度は学生がドンドン入ってきて大入り満員。
そんな中、学生達が私達を見つけ、羨ましそうな目。これは想い込みかも知れないが、何か、そう感じる。
年上の人「小倉は若い人が多いのね、それに学生服が可愛い」「沖縄でも同じセーラー服着てたのよ。私もずーっと学生服でしたから、親が服を買わなくて良かったので喜んでました」と、年上の人。
そして、祇園競技会場が近い、大門から西小倉駅前で降りた私達。
この前から真っ直ぐ歩くと玉屋デパート、そして小倉城があり、その先の小倉市民会館に勝山公園に小倉祇園太鼓の山車が16基とか聞いたので、大勢の人ごみの中をゆっくり歩く。

左右に露店の店が並び、赤い提灯が網目のように繋がっている小倉城前、さすがに祭りは着物姿が多い女の子達。そして、すぐに大門の祇園山車を見つけ、勢いのある大ダイコが鳴り響く。
薄明るい6時過ぎだが、その華やかさの山車上には、ハッピ姿の子供達が小ダイコにジャバラを鳴らし楽しそうだし、横笛を吹く年輩の方は、ヒョットコ踊りをしている。
水色のハッピ姿の若衆が、大太鼓を叩きながら、賑やかな踊りスタイルで、ヤッサヤレヤレの大声で歌い、その歌に合わせ、三っのタイコや、ジャバラの楽器が、ガンガン鳴り、リズミカルな猪子を合わせながら小学生ぐらいの子供達が、祭り着で山車のロープを引く。
年上の人が、思わず「カワイイ、あの子」と指差すところは、二才か三才ぐらいの女の子が、色とりどりのカンザシを付け、白い化粧に赤い唇。
まるでお人形さんのような子供が三人。
年上の人「三つ子かしら」
良く見てみると、子供達は、この日に合わせて可愛い奇麗な晴れ着でイキイキ。
その中には10代ぐらいの女の子が、赤、ピンク色のユカタに黄色の帯を、お揃いにし、髪には大きなリボン。みんな白化粧をしているので一際目立つ。それを見ていたら、
年上の人「ジョーさんも女の子、気になるのね」
ハッと言われて、すぐに顔が赤くなる悪いクセがまた出てしまった。
そして、人ごみをスリ抜けるように、玉屋デパート前から紫川方向に行くと、露店が両サイドに並び、美味しそうなイイ香りがしてきた、しかし大混雑だ。すると、いつの間にか年上の人が私の腕をシッカリ握って離さない。
何度も、何度も肩が触れて、少し嬉しい私。
やっと城の堀に出られ、勝山公園に進むと、もっとひどい混雑。私、汗ビッショリかも。
ときどき年上の人の横顔を見ると、光と影の調和が、あの女優、吉永小百合さんにソックリの顔立ち、しかも、何故か静かで美しい。
それに、こんなに歩いて、蒸し暑いのに平気なのか、と想うほど、年上の人は、いつも優しさに満ち溢れている様子。
年上の人「ジョーさん、お腹すかない?」
私 「イェ、ボクはまだ…」
年上の人「遠慮しなくてもイイのよホラ、タコ焼き。焼きソバ。アレうどん、じゃないかしら?」
私 「焼きうどんと言います」
年上の人「その中に玉子が二つも入っているのね」
私 「焼きうどんは小倉発祥の地で母が良く作ってくれます」
年上の人「そうなの、それなら私、焼きうどん食べてみたいわ、貴方は?」「私も同じもので」
その露店の中に入り、年上の人が注文していると、露店の親父が
「アレ、奇麗なお嬢さん、何処からですか?」
年上の人 「若松です」
露店の親父「若松には、こんな奇麗なお嬢さん、いませんよ、私も若松ですから」と、露店の親父。隣りで、そのおばさんが「若松の、えびす市場に店を出しているんよ、今度来てサァー」
年上の人 「ありがとうございます」
露店の親父「何処に住んでいるカァね、お嬢さんは」 年上の人「芳野病院に勤めています」
露店の親父「すぐ近くじゃネェーか」
露店の親父「ますます気に入った。大盛りでブタ肉二倍入れとくかー、
玉子も二つ入れて150円、2つ」とかの、威勢のイイ親父だ。
年上の人の、隣りいる私には目もくれない露店のご夫婦だった。
その焼きうどんを持って、公園そばのベンチに座れた。
温かい美味しそうな焼きうどんを、ハンカチの上に置いて、美味しそうに頂く年上の人。
私も、お腹がすいていたのでガツガツ食べて、美味しかった。すると
年上の人「食べきれないので、ジョーさん半分食べてネ」とか言って、無理やり私のパックに入れてくれた。美しい女性から、食べ残りものを頂くこと、じたい恥ずかしい。でも、哀願している奇麗な瞳が素敵で、これまでに見た事ないような顔。
その顔が私を覗き込むぐらい見てくれて「ごめんなさーィ」しかし私は凄く嬉しい。
この事は絶対秘密だと想った。
そして、ある事に築き、チョット待っててください、すぐに来ますから、と言って露店でオレンジジュスを栓抜きしてもらい、大きな紙コップ二つに入れてもらった。
お姉さんに差しだすと、嬉しいわ、欲しかったの。
私は、その残りの焼きうどんを一気に食べ、お腹パンパン。
後方に小倉城がライトアップされ、入場する人がいたので、今日は祭りなので開いているらしい。
それで年上の人に、
私 「小倉城に入りませんか?」
年上の人「入ってもイイの?」
私 「今日は9時まで開いているようです」という事で早速、入った私達。
今日は年上の人が全部、おサイフしてくれる。
まず一階。大きなトラの屏風に、小倉武士の鎧に刀、ヤリ、カブト。
二階に上がると、昔の地図をイメージした小倉城全体の模型から、屏風に、歴史資料。
三階は、殿様が乗るカゴに、お姫様のカゴ。これは中に入りOKの、写真撮りできるもの。
急な階段を上りつめて、最上階へ上がると、さすがに一杯の人々、それでも少しのスペースを見つけ、小倉の夜景が360°見渡せる。
「すごく奇麗」と、年上の人。
ここから見る祇園太鼓の山車が4基続く小文字通り、市民会館と勝山公園前には5つの山車があり、その周辺は人だかりで、身動きできてない。その通りから大門側にも子供達が引く山車が3台続き、ここまで太鼓の音が聞こえる。
そのような景観を年上の人が見て「沖縄の祭りには無い、男らしい祭りね」とか。
「でもこんなに沢山の人びとが、祭りに参加し、楽しんでいること、素晴らしいわ。それに、このような、お城から祭りが見られること、私の故郷ではないの」。
隣りで年上の人が、ポツリポツリ話している言葉を聞きながら、黙ってその景観を見ているときも、私の左腕を優しく掴んで離さない。
私達のようなカップルは、ほとんどいない小倉城天守閣、みんな同性の女の子達か、あるいは、ファミリーが多い小倉城。それで一際、私達は目立っていると感じている僕がいた。
それで、そしらぬ格好するのも大変だし、何より年上の人の、体の温もりが伝わってくる、ぐらい狭くて多い人、でも、なぜかそれが嬉しい。
一通り見終わって外に出ると、小倉城から市民会館、勝山公園に続く道の両サイドに、赤い提灯が二列に繋がり、その両サイドに露店がひしめき合い、その露店の前は人だかりで、ごった返している。
その通りに祇園太鼓の山車が入り、ヤッサヤレヤレの掛け声が響くと、それを合図にして、山車を引く子供達が一斉に大声でヤッサヤレヤレが一面に響く。

そのような通りで人々が、ぶつかり合い、前に少しずつ進む。そして、いつの間にか年上の人の手が、私の左手を握り、前、後ろになっても、シッカリ離れないで着いて来てくれる。もう、無が夢中なのかもしれない。そんな通りからやっと抜け出した所に勝山公園がある。
ここにも休息を兼ねた山車があり、若い子が引っ切りなしにチャレンジする大太鼓に、小太鼓。
その近くに行列が出来ている、お化け屋敷。
祭りに欠かせない、人気で、若い子たちが列になって並んでいる。それで
私 「あの中に入りませんか?」
年上の人「ジョーさん、怖くないの」
私 「ハイ、ときどき友達と入る事あります」
年上の人「そうなの、でも怖いわ、私」
年上の人「貴方が入るなら、私も付いてゆくわ」
私 「ジャーあ、チケットは私が買います」
年上の人「ありがとう」
そして、年上の人がシッカリ腕をつかんで、いよいよ入場。
腕をつかんで、いるので、ガチン、ガチンになっている様子がすぐに分かる年上の人。
私にピッタリくっついて来て、年上の人の身体がアッチコッチで感じてしまう。
私も屋敷より、こっちの方が緊張というよりは興奮して、又々恥ずかしい。
すぐに真っ暗になり、白い着物を着た死人が下から急に出てきた。
それに合わせて、ドドドーンと音が鳴り、「ギャーッ」と、別グループの声だ。
年上の人は、私の左肩をつかみながら、やや後方にピッタリ着いて来る感じ。
それで、後手を引っ張られる感じに、なりながら着いて来て、前を向かないようだった。
そんなとき、その横から、いきなり長首の女の顔が出てきて、「キャーッ」と、年上の人。
その瞬間、後方から私を抱きしめている事になり、ブルブル震えているのが私に伝わってきた。
私は、いつもの人形のイタズラと想いつつ、少し早目に通り過ぎる事にしていると、前のグループに追いつき、一緒に歩くことができ、何が出てきても、前の人が、まず体験するので、私達は案外怖くない。年上の人も大分落ち着いてきたようで、私の横にピッタリ腕を握ってくれ、緊張感が凄く伝わっているのを感じた。
わずか10分たらずの、お化け屋敷、年上の人の顔は少し青ざめているようであり、今までの顔とは全く違って見え、女子高校生の女の子に感じた。
露店で冷たい金時、カキ氷を買ってくれた年上の人、
紫川そばのベンチが空いていたので、腰かけて「冷たくて美味しい」と、年上の人。
川の中ではボートが20ハイほど出て、ほとんどペアーの若い方ばかり。
その中でも、着物姿の女の子が乗ったボートは「キャーキャー」聞こえる楽しそうなカップル。
すると、年上の人「ジョーさん、抱きついたりしてごめんなさィ」
私 「………」
年上の人「恥ずかしいので、このこと秘密にしてね」
私 「ハイ」
年上の人「そろそろ9時前、帰らなくっちゃ」とかで、
年上の人「先程のバス停まで案内してね」
私 「ハイ」
ゆっくり来た道を帰るにしても、やっぱり人が多くて大変。
でも、年上の人がシッカリ手を握り肩を寄せてくれて、すごーくイイ気分。
もっと一緒にいたいという気持ちがドンドン沸き上がってきても、早く帰らないと、母が食事の準備をしている事を考えると、そんな分けにもいかない。
ましては、年上の人は寮生なので困るに違いない。そう感じたら、意外と早足になり、
年上の人「ジョーさん、歩くの早―ィ」
私 「あ、すいません」とか言っていたら
帰りのバス停に、若松行きのバスが止まっていて、慌てて年上の人が乗車した。
混み合っているバスの中で、ニコニコして「バイバイ」してくれる年上の人。
すごーく嬉しい、でもチョット恥ずかしい私だった。
夏の間の印刷所は、とにかく暑い。
窓をオープンにしても、3階建の鉄筋が燃えるように熱を持ち、暑くなる。
その上、印刷機械が30台ほど動くと、それぞれの機械から熱を出すので、機械場の人はみんなランニングシャツ一枚で汗ビッショリなのだ。
それでも、営業まわりの人々も、営業車にエアコンなど付いてないので、大変な仕事を、それぞれしている。その上、北九州市若松はスモッグ注意報が毎日発動され、日中でもうす暗い。
その要因の一つが煤煙。
煤煙とは、工場の煙突から噴き出るもので、煙の中に混じるツブツブのコークス。
それが会社の中に入ってきて、白い印刷用紙に付くと仕事にならない。
もちろん洗濯物がその煤煙によって黄色に染まったり、ザラザラの砂が着いたようになるので、この辺の人々は室内で洗濯物を乾かしている。
深刻な大気汚染された空は、いつも曇り、朝日もオレンジ色の、影のように出てくる北九州市。
今、公害の真っただ中で私達は仕事をしている。
今日も、そのような一日が始まり、朝から竜野さんが汗ビッショリで、必死の仕事している。
早く納品しないといけない、カラー印刷を汗だくで印刷し、やっと両面5色の仕事が昼過ぎに終わり、製本場の福田さんが折り機で8つ折りして、半分納品できることになり、柚木専務が慌てて三菱化成に納品できた。
難しい印刷機械部門の仕事は、意外とデリケートで、毎日、ピリピリしながら高品質のものを印刷し、大変なのだ。その為、その課を担当する空閑課長は、しょっ中、事務所に呼び出され、怒られているとか。
それで、私達も出来るだけミスのないイイものを作るよう努力している。
そんな金曜日、事務所のマドンナ、池田さんがやって来て、私の顔を見るなりニヤニヤ、ニコニコして問いかける。
マドンナ「ジョーさん、小倉のお祭り楽しかったでしょう」
私 「エッ、アー」と、声が続かなかった。
追い打ちをかけるように
マドンナ「芳野病院の中野さんね、今度、お見合いするそうよ」
私 「………」 頭の中で、その事を整理しても返す言葉が出ない。
マドンナ「中野さん奇麗でしょう、病院の中でも結構ウワサがあるのだけど、弟、想いで、
おとなしい私みたいな性格なの」、と、マドンナ
私 「ア、ハイ」
その話しを、そばで聞いていた空閑課長が、興味ありそうで、
空閑課長「池田、お前がそんなにおとなしいか」
マドンナ「おいちゃんは、この話し聞いては、いけないの。私とジョーさんの事なんだからァー」
と、チョット怒りっぽく言った。
その表情は、まるで娘さんのような親しさ。
でも、きつい顔するマドンナの顔を始めて見た。
マドンナが、空閑さんの腰を押して「アッチに行って」とかで、やっと二人きり。ただし、印刷機械がゴゥゴゥまわり、一枚一枚印刷している。その中でマドンナが言う。
マドンナ「それでね、中野さんが貴方にプレゼントがあるそうなの、
詳しくは聞けてなかったけど、貴方、何かイイ事、したの?」
私 「イエ、何も」
マドンナ「イイわねェー、若い子って」とか言いながら行ってしまった。
私の、頭の中は複雑な想いがある。
お見合い→結婚→会うことがなくなる→色んな事が頭の中でグルグル回っているが、身体は仕事で動いている、しかし多分仕事に集中できてない事が分かる。
そして昼休み、吉田印刷所は12時から1時までの休み時間があり、弁当を食べて、昼寝が出来る余裕がある。私は機械場の机が利用できるので、ここで一人、弁当を広げ、昼寝をしている。
その他の人は二階の食堂でオシャベリしながらの食事をしているか、家庭を持つ40人ほどの職人さんは徒歩2分の社宅に帰ってから、家でお昼ご飯ができている環境。
そして午後6時で、やっと責任範囲の仕事が終わると、一時間残業で、タイムカード押して下に降りると、ちょうどマドンナ池田さんが私の顔を見て「お疲れさま―」
私 「ハイと簡単な会釈をして」外に出ようとしたとき、
マドンナ「チョット待って、私も若松渡し場のバスに乗るので一緒に」ということで、
二人並んでの帰り道、マドンナがペチャクチャおしゃべりする。
マドンナ「中野さんのこと、日曜日、お見合いみたい。気にならないの?」
私 「ハァー………」
マドンナ「ジョーさんは特別のようにお付き合いできているでしょう、知ってるのよ、何でも」
私 「ハァー……」
マドンナ「ジョーさんが中野さんに何かプレゼントしたことも、小倉の祭り一緒に行ったでしょ」
私 「ハァー……」
マドンナ「どうして、そんな関係なったの」
私 「ハァー……」
マドンナ「ハアァ、ばかり言っても分からないの、言葉はないの?」
私 「それでも、ハァー……」とか言っていたら
駄菓子屋、真浄のお母さんが 「お二人さん、今、お帰り?」
「ハイ、私達デートしてます」と、マドンナ。
すると、真浄のお母さん 「寄って行かない?」
マドンナ「ジョーさん、コーヒーミルクおごるわよ、入る?」
私 「ハイ、頂きます」とかで店の前に置いてある長椅子ベンチに並んで座ると、すぐにお母さんがミルクコーヒー瓶二つ、線を抜いて、持って来てくる。
それを一気に飲み干すと、「冷たくて美味しい」と、マドンナ。
私も美味しかったので、マドンナにもう一度「ありがとう」
マドンナ「イェイェ、こんな事しょっ中でしょう中野さんと」
私 「ハァー」と、又、溜息の私。
そして、真浄のお母さんとマドンナがペチャクチャお話し中、私、抜きで。
今日のマドンナは、淡い水色の半袖ブラウスに、淡いブルー色のタイトスカート。
座っていると、すごくミニスカートになって、見てられない。
でも、マドンナと、お話ししているときは不思議にドキンも、ドキドキもないから不思議。
真浄のお母さんが 「ジョーさん、美人とデートできて嬉しい?」
私 「ハアー…………」
マドンナ「声がない、声がないと、睨みつける」
私 「ハアー……………」
マドンナ「さっきから話しかけてるのに、何も話さないのよ、おばさん」と、
真浄の、お母さんにブリブリ文句を言ってるマドンナ。それも二人ともニコニコ笑いながら、何故かしら楽しい会話が出来ているのだが、私は早く帰りたい。
でも、そんなこと言ったら多分、マドンナが怒るし、日頃からアメ玉、菓子をたくさん貰っているので、そんな事出来ない。
そのオシャベリ中に、会社の女の子達が、みんなマドンナに挨拶して通り過ぎる。
ときどき中年のおじさんが、眩しそうにマドンナを見て、通り過ぎる。
県道は会社帰りの人々が多い。
やっとお話しが終わって、若松渡し場まで歩く私達だったが、
マドンナ「ジョーさん、海岸通り行きましょう」と、若松港側の洞海湾側を通ると、
人がまばらになった。
マドンナ「中野さんの実家は沖縄で、海が凄く奇麗とか言っていたのよ」
マドンナ「ジョーさんは魚釣りするでしょう、何処で釣りしてるの?」
私 「空閑課長が宮崎県のビロー島とか大分の鶴見崎の磯釣りに連れて行ってくれます」
マドンナ「やっと声が聞けた。釣りの話しならできるのね」
私 「ハーァー」
マドンナ「中野さんはね、沖縄から、こちらの親戚を頼って芳野病院に来たの。
実家は沖縄でしょう、すごく淋しがりやさん、なのね」
マドンナ「弟は東京で、家族がバラバラなの」
マドンナ「分かるでしょう、ジョーさん」
私 「あー、ハイ」
大きな貨物船が若戸大橋をくぐり抜け、ボーッと大きな汽笛を鳴らし、通り過ぎると、その大波が海岸遊歩道の護岸に打ち砕かれ、そのシブキが舗道に振りまかれる。
そんなとき決まって「キャァー」とか言うマドンナ。その姿を三度見た私。
こんなに愛らしい人とは想ってもみなかった私。すごく新鮮に見えた。
そして渡し場に着くと、すぐにマドンナの乗るバスが来て「バイバイ」と手を振ってくれた、奇麗で気配りの出来る優しいマドンナだった。
次の週は、二階の活版製版課に行く事になった。
こちらも忙しそうで、若松ボートの仕事が10日間入り、その間はみんな9時まで残業とか。
それで私は植字の仕事。簡単な軽作業で、
宮村課長が「上瀧、簡単な原稿20枚ヤル、好きなように版組みし、分らんやったら内田さんに聞け」と、いつもの調子で言いつける。
背が高く、吉田正人社長の親戚になる方で、いずれ工場長とかの人。
この宮村課長が二階の活版製版課で40人ほどをしきるが、意外と人気のない人。
その中で、私の隣りで仕事を教えてくれる内田さんは釣りの師匠さんで、親父のような優しい人。
いつも私を「ジョーさん」と、言ってくれるので親しみ込めて、内田さんから詳しく仕事を教えてもらえる。それで二階の活版製版の植字に来ると、私はいつも内田さんを頼りにしている。
そんな中、私がする作業は植字組版で、5号、6号、9ポなどの活字とコミを組み合せながら罫ワクが入り、B5とか、A4サイズの原校を、その通りに組むのだが、この作業は、コミとか罫、活字文字が必要となり、これを10代ぐらいの女の子が全部準備してくれる。
それで、女の子に、きっちりコミュニケーションしないと上手に仕事ができない。
しかし私は女の子に対して無口。ほとんど会話できてない。
そんな私を見かねて、内田さんが私の分までアレコレ、女の子に指示してくれるので大助かり。
ハッキリ言って若い女の子が苦手なのだ。
宮村課長も意外と女性が苦手のようで、結構控え気味に女性と話しをしているので良く分かる。
ただし、奥様が製本場の主任、しかも美人として人気の夫婦。
それだけに、かなり遠慮しているのか、とも想える。
それで、製本場の宮村良子おばさんは、ときどき私に菓子をくれる。
どうしてか分からないが、やっぱり私が二階で、夫の宮村さんの職場で真面目に仕事をしている事かも知れない。
そんなとき、マドンナが宮村課長と仕事の話しをしに来た。それで私を見つけ、
マドンナ「あらー、ジョーさん、今日は、ここの仕事?」
私 「ハァー」
マドンナ「ガンバッてね」
私 「ハイ」
そして課長と仕事の話しがすぐに終わり、その後、私のそばに来て小さな声で
マドンナ「あのね、中野さん、結婚しないそうよ、聞いた?」
私 「ハアー」
それで、私の背中をチョンと押して、事務所に戻った。その話しが早く聞きたくて、ウズウズしていた私。やっと解放感が出てきて、この日はモリモリ仕事をしたと想う。
週末の金曜日の朝、いつものように石橋のおばあちゃんに、朝のご挨拶に行くと、今日は早くもマドンナが室に上がり込んで、おばあちゃんとオシャベリ中。
すぐに私を見つけたマドンナが、「ジョーさん、上がりなさい、話しがあるのよ」
私 「ア、ハイ」ということで、縁側にチョット座ったら、早速、おばあちゃんが、
いつもの抹茶を出してくれた。
私「ありがとう」
マドンナ「あのね、昨日、芳野病院に行ったの。そしたらね、中野さんが東京の弟さんから
ジョーさんに届け物が来ているそうなの」
マドンナ「それでね、届け物を直接、ジョーさんに上げたい、とかなの、分かる?」
私 「ハァー」
マドンナ「ハァー、じゃないでしょう。この間から中野さんとデートしているでしょう」
と、イジメられている感じ。
それでも、一つ一つの答えが出てこないので、尚更おもしろがって、
マドンナ「ジョーさん、中野さん好き?」
私 「ハァーと、又、溜息をついてしまった私」
黙っていたので、私の顔を望み込むようにしてみるので、すぐに、お茶を一気に飲みほし、おばあちゃん「ありがどう」して、急いで室を出た。
昼からの仕事中、今日も残業の予定でハッスルしていたら、私の横で急に化粧の香りがしたが、無視。仕事に没頭していると、耳元で「ジョーさん」と言われたのでビックリした。
振り返るとマドンナがニコニコして、
マドンナ「朝、逃げたでしょう。まだ話しが終わってないのよ」
マドンナ「中野さんが貴方に渡すもの、土曜日の夕方6時、いつもの橋台下でイイかしら?
と言ってました」
マドンナ「お返事は?」
私 「今ですか?」
マドンナ「そうです、電話するの」
私 「残業かも知れないので時間は決められない」するとマドンナ、
宮村課長にかけあって、定時にしてしまった。
マドンナ「これで決まり。中野さんに報告します。以上です」
「ハァー」と深い溜息が出る私。そばで聞いていた内田さんが、興味があるらしく
内田 「マドンナと何の話し?」
私 「イヤー、別に」
内田 「そんなことナイ、土曜日は定時?、まさか仕事が忙しいのに」とか色々……。
しばらくして、宮村課長がやって来て
宮村課長「上瀧、用事があるときは直接、私に言ってくれ、イイナァ」とブツブツ文句を言われた。
私 「ハイ、分かりました」
内田 「今日は宮村、機嫌が悪い」
内田 「原稿ミスがあり、営業部から酷く文句を言われたらしい」
内田 「こんなとき静かにしとけ」「ハイ」と私。
土曜日の夕方5時、いつも通り、仕事終わりのチャイムが鳴り、二階の製版部以外は、どこの職場も定時で終わるとか。
その中で私も、ゆったりした時間で三階の更衣室で着替え、このときは水タオルで体を拭きあげ、下着まで着替えてしまう。全てを着替え、白い半袖カッターシャツに紺色のスラックスは、相変わらず学生ファッションで会社を出た。
若い女の子が多い会社の終わり時間は、あっちこっちから女性の話し声が聞け、それが県道の駄菓子屋、真浄まで続く。
この店を基点にして、区役所方向に半分以上。若松渡し場に30人ほど帰ってゆく女の子たち。
私だけ若戸大橋、橋台下に行くと、年上の人が待っていた。
年上の人「こんにちは、お仕事お疲れさまです」と、頭を下げて挨拶してくれる事務服姿のお姉さん。清楚な白い半袖ブラウスに紺色のタイトミニスカートが凄く似合って眩しく感じる人。
すぐに、ヒモ付きの紙袋から、小さな箱を出してくれた。
年上の人「これは東京の弟、弘くんから貴方にプレゼントなの、受け取ってね」
私 「本当に頂いてもイイのですか?」
年上の人「そうよ、この間、本、頂いたでしょう。送ったらね、早速、電話があってね、
お姉さんと、貴方と、どんな関係?と言われたの」
年上の人「それで、弘くんと同じ年で学生さんよ、と言ったの」
「すると、ウソだろう、とか言われたけど。やっぱり貴方を見ていると弟に良く似ているもの」
年上の人「だから心配しないで受け取ってね。
できたら今、開けてくれない?。私、何が入っているか知らないの」
小さなリボンで結んであるので、ヒモをといて、包装紙を取り、
箱のフタを開けると、中には万年筆が入っていた。
私 「ありがとうございます。高価なものです、すいません」と頭を下げると
年上の人「さすが弘くん、ガンバッタ」と、ニコニコ笑顔が最高になった。
凄く仲の良い姉弟だと感じたが、すぐに
年上の人「弘くんはね、お勉強しながらバイトしているの。そのお金で買ったとか言ってたのね」
私 「ありがとうございます」
年上の人「それよりも、あの本「丸」は、凄く面白く、興味があって、次号を買うとかでね、
弘くんの、お友達もプラモデル研究会とか作って、作品の見せあいこ、しているらしいの」
私 「そうですか、良かったです」
年上の人「まだあるのよ」とかで、一緒に若戸大橋上まで送ってくれる年上の人。
エレベーターの職員が私達をみて羨ましそうに見つめ、今日は私に声掛けしてくれなかった。
そして、私が乗るバスが来てしまった。すると一瞬、ガッカリの年上の人。
その顔が見えたので、次のバスにすると、
年上の人「ごめんなさいね、話に夢中になって」
「今度、弟と沖縄に一度、帰ることにしているの。親に会う事なんだけど、
そのとき、ジョーさんのオミヤゲ準備して上げる。沖縄だけど、何かほしいものある?」
私 「嬉しいです、何でもイイです」
年上の人「そう、沖縄のイイところ、たくさん知っているの、今度は、そのお話し聞いてもらえる?、今日じゃなくてね、明日はお暇?」
私 「イェー、寝ています」
年上の人「そうなの、若松に来る事ないの?」
私 「アーァー……」
年上の人「もし良かったら若松のこと案内してくれない、高塔山とか」
私 「暇ですから来ます」
年上の人「嬉しい、本当に明日、イイのね」
私 「ハイ、9時頃でイイですか」
年上の人「いいの、いつでも。私の近く、ロータリーのバス停で待っているわ」
嬉しそうな笑顔が女子高生のような顔立ちになっている。
大きな目に、大きな口元。薄化粧が尚更、女子高生になり、凄く爽やかな女性。会社のマドンナとは全く違う女性として、私のハートでドキン、ドキンが又々始まった。多分、明日デート。
こんな事があってイイのかと想うぐらい幸福感を見て感じていると、バスがきて乗車。
すると、年上の人が見えなくなるまで優しく、小さく手を振って、いるのが分かる若戸大橋の夕焼けだった
次の日、今日は通勤着でなく、半袖のブルーのポロシャツに、始めて買ったGパンをはいて家を出た。バスの中で、年上の人とデートできる喜びというよりは、嬉しいあまりに、興奮しているかも。
心が躍ると余計に心臓がドキン、ドキンしてくるようで、こんなときはバスの窓から外の景観をシッカリ見る事にしている。そして午前8時過ぎに若松についた。
ロータリーのバス停舗道をウロウロしていると、向こうから年上の人がやって来た。
「おはよう」と年上の人。
私も 「こんにちは」して、すぐに
年上の人「ごめんなさい、せっかくの休日に呼び出して、でも私、嬉しい」とかの話しが続き
年上の人「今日お天気イイでしょう。高塔山、貴方と一度登ってみたかったの。
ここから近いのでしょう」
私 「この坂道を登ると高塔山公園があり、展望所があります」
「そこに行くのね」と、年上の人。
今日の年上の人のファッションは、薄地の白い帽子に半袖の水色のTシャツ、濃い水色のパンツ。
そしてヒモ付きの白い運動靴のファッション。
いかにも山登りするスタイルで、凄くカッコイイ。
学校の先生のようなファッションに魅せられて、ゆったりの坂道を登る。
最初の登り口左側には西鉄ホテルがあり、広い整備された公園を見ながら幅一車線の狭い登山道。
以前はケーブルカーがあったのだが、今は若戸大橋の人気が少なくなり観光客が来なくなったことで廃止された。
しかしながら高塔山は若松市民のオアシスとして、少しずつだが整備され若松の人気スポット、ナンバーワンでもある。
そして、その両サイドにアジサイ色が少し残ったり、桜とか緑の多い並木道が日影を作り、その坂道が曲がりくねって、更に、上に、上にと続く。
そして、所々の道路わきから見られる若松市内の景観。
その中でドス黒い洞海湾や、私が勤める吉田印刷所の看板が、やけに目立つ。
そして夏日は、さすがに暑い。
しかし、大きな木が舗道の影道を作ってくれ、時より風が身体の熱をうばいとってゆくのでありがたい。それにセミの声が、やたらとうるさく聞こえる。
しかし、年上の人が、ハァー、ハァーの溜息の方が、きつく聞こえたので足を止めた。
色白の、年上の人の顔が赤く染まり、きつそうだったが、こればかりは何もできない。すると
年上の人「ジョーさんは平気でしょう、この坂?」
私 「結構きついです」
年上の人「そうなの、私もなの」と、やっとホンネが聞けて、
そばにある石つくりのベンチで休息。夏場の今ごろは、ほとんどの方は高塔山を登らない、暑いし、休息する場所がないからで、若者達だけ利用している高塔山かもしれない。
年上の人が、日陰で涼しい風をとらえ「心地いい風ね、日頃から運動してないので、今日は頑張るわ」と、大きく両手を伸ばして深呼吸。
私は、もっとスローペースにし、年上の人と同じペースで、ゆっくり、ゆっくり時間をかけて登る坂道。そして70分かけて登った高塔山の頂上。
早速、日影のベンチに座ったので、私も、その横にチョコンと座る。
少し疲れている様子の年上の人。
黙っているのも辛いので、そばの売店に入りコカ・コーラ―と、カキ氷を二つずつ買った私。
年上の人に差し出すと、優しそうな眼差しでジィーと私を見つめてくれる年上の人。
やっぱり無理だったかなァ、と想った私だったが、
すぐに年上の人が、カキ氷にスプーンを入れ、「冷たくて美味しい」とかで、ゆっくり、ゆっくり食べ、やっと今までのようになった年上の人。そして売店のおばさんから借りたコカ・コーラ―瓶を、栓抜きで開けると、シューと吹き出るコーラーの泡。

それを少しずつ飲み干していると、いつの間にか汗が止まり、涼しくなってきた。
すると、元気が出たのか、年上の人が、飲みかけのコーラー瓶を、売店のおばさんに返却したので、合わせて栓抜きを返した。
そして展望台の階段を一つ一つ、丁寧に上がりつめ、そこから見る、若松市内の町並み、「貴方が勤めている会社が見えるわ」と年上の人。
そして、サラーっとした、そよ風が、彼女の髪を乱しているが、その風が更に汗を吹き飛ばしてくれる夏の日。対岸の戸畑、右側には八幡製鉄所があり、その前が洞海湾。
左側には、響灘の馬島、藍の島、白島があり、中央の関門海峡は、下関から小倉が遠くの遠景となり、スモッグで良く見えない。
それでも
「奇麗な景色ね」と、年上の人。
それで、持って来た私のカメラ、アサヒペンタックスには、新しいフイルムが入り、いつでも写せる事になっているのだが、モデルさんになってもらえるのは、恥ずかしいと想っていると。
年上の人「私、写してくれない?」
年上の人「弟に、私の写真、贈る約束、まだ果たしてないの、イイかしら」
私 「ハイ」ということで
始めて年上の人の写真を、若戸大橋を遠景にしたポジションで5枚ほど撮ると、
年上の人「貴方も撮ってあげるわ」とかで
年上の人「これ、シャッターボタン?」
私 「ハイ、レバーボタンを一回、大きく回すと、次のフイルムがセットできますが、シャッターを押す前にピント、レンズで接点を合わせます、こんな風に、と、レンズを合わせると、ハッキリした画面が出てきてシャッター押します。
それが出来ると、又、次のフイルムを出すので、レバーを回します」などと説明するとき、年上の人と頭がゴッツンコするぐらいになっても年上の人は気付かない。
そのような雰囲気の中、優しい甘い香水が香ってきて、女性を感じた。
そんなとき、新婚さんのようなカップルが来て「写真撮りましょうか?」
年上の人が「お願いします」とかで、無理やりポーズをとらされてしまった。
でも、本当は一緒に撮りたかった。
それが現実になり、私は心の中で大喜びしている。
その新婚さんカップルには、私が写真を撮ってやり、しばらくして再び、そのカップルが私達の所に来て、別の景観の前でもパチリした私。
そして展望所下にあるカッパ地蔵にもお参りして、10円のお賽銭を入れてから、私の知識でカッパ地蔵のお話しをする事にした。
展望所下の広いテーブルの石イスに座り。
火野葦平の紹介を少し、してみた。
北九州市若松を代表する芥川賞作家、火野葦平はペンネームで、本名は玉井勝則。
戦時中、中国で新聞記者のような立場で戦記物をまとめ、戦後、出版した本などで賞を取ったこと。
そして何より、玉井勝則(火野葦平)の父が玉井金五郎という人物像を小説にした「花と竜」で書き、大ヒットとなり、映画とか歌などで人気の作家を紹介した。
今、小倉東映会館で渡哲也、主演の「花と竜」が上映されている事、等。
それを聞いた年上の人「貴方は、すごくエライわ。若松でなく小倉の人でしょう」
私 「ハァー、このお話しは、会社の先輩とか宮村さんという方から聞いたことです」
年上の人「でも、すごいわ。詳しく紹介してくれたもの」
年上の人「私も沖縄に帰ったら、このお話しできるし、若松に住んでいるでしょう、若松の色々な事とか、小倉の街、それに、お祭り。たくさんのお話しがオミヤゲにできて、母が喜びそう。ありがとうジョーさん」
その展望台広場は昔、ケーブルカーがあったところで、私が小学生のころ若戸大橋が開通し、この高塔山ケーブルカーに乗った。観光の目玉だったころの、華やかな観光地でなくなった高塔山だが、市民のオアシスとして利用されている。
もう一つの目玉は、この山頂から続く仏舎利塔。
インドのシャカ王の骨が少しある、とかの白い丸い塔、ここにも案内した。
年上の人「日本の仏教の始まりはインドなのね」
年上の人「沖縄には仏教がないのよね」とかのお話しが聞けて、そろそろ下山を始めた私達。
ゆっくり、ゆっくり、高塔山を降りて、若戸大橋ロータリーに出ると、
年上の人「ジョーさん、ソバで有名な「藪」行ったことある?」
私 「ナイと想います。
年上の人「そこでお食事しませんか?」
私 「ハイ、ついて行きます」とかで、この間の栄寿司店と、若松信用金庫から商店街に入る狭い路地に入ると「藪」の店があった。
ごく平凡なお店であるが、この日は日曜日とあって超満員。
でも、二人分の席をもらい、向かい合って座ると、チョット恥ずかしい私。
それでも、ごったがえしている店内は、若人とかファミリーが多く、人気の店とすぐに分かった。
すぐに私の前にソバ・天プラ定食が出された。
豪華な天プラはエビ、キス、カボチャ、玉ネギ、ナスビ、これにグリーン色のソバは大盛りで、切りノリがタップリ降られて、見るだけで美味しそう。
年上の人も同じメニューで、早速頂きます。
グリーン色のソバをメンツユに浸けて頂くが、これが冷たくて凄く美味しい。
お腹がすいているかも知れないが、ガツガツ、ペローンとたいらげた私。すると
年上の人が「半分食べてネ」と、お構いなしに私のザルの中にソバを半分入れた。
私 「エッ」
年上の人「イイでしょう?」
年上の人「残したら勿体ないでしょう。私ね、食事時、いつも残して、父から怒られていたの」
年上の人「それでね、いつも弟が私の分を食べていたの。秘密にしてネ」少し間を開けて
年上の人「お願いがあるの、私と一緒にお食事するとき、弟になってね」と、
姉のような言い方になり、
私 「エーェー」と声が出ない。そして、
年上の人「大きなエビフライが2匹もあるのよね、1匹食べてネ」で、又々追加してくれた。
何か年上の人のイメージが消えてゆく感じ。しかし、そんなときの表情は女子高生になっているから、とてもイヤとは言えないし、妹のような雰囲気があって、そこも好き。
とうとうホンネの〝好き〟が、ハートの中で積もっていると、いきなり
「上瀧ャないかァー」と、職場の竜野さん夫婦。隣りの奥様は始めて見る方で、
竜野さん「お前に彼女おったかー、知らんやった」
「お前ヤルノォー」とか言うので、多分酒を飲んでいるようだった。
そのような雰囲気を割って入った
奥様が 「貴方がジョーさんなのね、仕事が良くできていると評判の方は」、
今日は主人が飲みすぎているのでごめんなさいね。
隣りの方は確か芳野病院で見る方、すぐに、
年上の人「はい、その病院の受付事務しています中野と申します」と、
話しが丸くなって早々に竜野さん夫婦が店を出た。
私 「すいません、会社の上司で、いつも優しく仕事を教えてくれるのですが」
今日は、と、次の話しが出来ない私、
「それでもグリーン色のそば、始めて食べました。凄く美味しかったです」と、お礼を言って、
年上の人「藪のソバは濃いい緑色でしょう、珍しいそうです」
年上の人「このお店ね、院長先生から教えて頂いて、奥さまが三度も案内してくれたのです」
私 「ハァー、そうですか」
年上の人「ジョーさんの、通のお店はあるの?」
私 「若松、あまり知らないのです、丸柏デパートぐらい」
年上の人「それで小倉なのね」
私 「アー、ハイ」
年上の人「もう少し貴方と一緒にいてもイイかしら」
私 「ハイ、大丈夫です」
年上の人「この間、小倉祇園祭り楽しかった、覚えていますか?」
私 「ハイ、凄く楽しかったです」
年上の人「そう、私みたいな、おばさんが、こうして貴方と一緒に食事できること幸せです」
年上の人「それに、貴方とこうしていると、会社の人と出会い、色んなこと聞けて、私、嬉しいのですよ。迷惑かも知れないけど……」
私 「イェ、そんな」
年上の人「それに貴方と一緒にいると何故かしら落ち着くの、変かしら?」
私 「ハァー」
年上の人「多分ね、弟といつも一緒だったから、それに弟が私を頼って何でもしてくれたの、子供のころのお話しですよ」
私 「ハイ」
年上の人「それでね、いつも貴方に申し訳なくて、ごめんなさいね」
私 「ア、ハイ」
店を出て、いつの間にか大正町商店街に来た。
すると、決めていたかのように、トラ屋の店に入り、いきなりソフトクリームを注文して、「ハイ、どうぞ」と私に、
それで、お店の中に入るかと想えば、意外と意外、食べながらの散歩?になっている。
年上の人「私、沖縄の人でしょう。沖縄で生活していると観光で来ている若い人が、みんな食べ歩きをしているので、私、貴方ならできそうと想ってチャレンジしています」
私 「ハァー、そうですか」
年上の人「でもチョット上品ではないかしら?」とかで、チラーッと私を見つめてくれて、
私 「男はみんな立ち食いします。特に学生は女の子でも歩きながら、アイスクリームを食べることします」
年上の人「男の子はイイわネェー」
私 「イヤ、小倉祇園祭りでも着物の女の子がアイスとかジェラートとか色々食べてました」
年上の人「弟のような考え方するのね、ジョーさんは」
私 「ハイ、弘君と想って何でも言って下さい」
年上の人「ありがとうと、言っていいのかしら」
私 「いつも会社の池田の、お姉さんから、いじめられていますから大丈夫です」
年上の人「池田さんは優しくて思いやりがある人、貴方をいじめる?」「それは貴方のことを、弟のように感じていると想うの、違うかしら」
私、声が出ない、何も言えない。それで気分を変えて「ラムネ飲めますか?」
年上の人「甘くておいしいから頂くわ」
すぐそばの酒店で栓抜きしてもらい、商店街そばの公園ベンチに座ると、涼しい日影があり二人一緒の甘いラムネが凄く美味しい。
その公園で遊んでいる子供達を眺めながら年上の人が、始めて若松に来て、お友達になれたの貴方だけなの、それに、あなたの会社の池田さん、凄く気が合って、お喋りできていること、凄く幸福しているの、可笑しい。
私 「本当は池田のお姉さんから、いつも声かけてくれ、遊んでもらっている事、嬉しいのです。私は会社の中では女性嫌い、と言われていますが、池田のお姉さんは特別なのです。僕、正直に言っています。
年上の人「ハイ、シッカリ聞きました」
私 「でも、この事、池田のお姉さんに、言わないでください、恥ずかしいので」
そのような恥ずかしい話し、私は苦手で、もう汗ビッショリ、かいているかもしれない。
そんな時、私達の前を通った夫婦がいて、いきなり振り向き「ジョーさん」と、声を掛けられた。
会社の迫さん夫婦で、
迫さん 「ジョーさん、隣りの女性は?」すると
年上の人「芳野病院で受付事務をしている中野と申します」と挨拶。続けて
年上の人「いつも吉田印刷さま、柚木さまにお世話になっています」のを聞いて、
納得の迫さん夫婦は、早々に市場に入った。
今、私達がいるのは浜町と中川町の間、少し歩くと私達釣り仲間が通っている矢野釣具店があり、その先には、今度私の仲介でチラシを作る、はまや釣具店がある。
年上の人には興味がないかも知れない魚釣りの話しなら、いくらでも話しが弾むのだが、弟のように接してくれる年上の人には、そのような釣りの話しはできない。
それでお姉さんのような、年上の人に話す言葉がないのが悔しい。でも聞く事は出来る。
それで、「沖縄の海はスカイブルーと聞いていますが、どんな海ですか?」と私。
年上の人「名護市の海はね、海水浴場みたいな砂浜が遠くまで続いているのね、最近は高層ホテルができて、観光地になっているの。でも本部町には砂浜より赤土が海辺に多く入り、釣りをしている人、多く見かけるの。
ジョーさんは魚釣りすると、池田さんから聞いたのだけど、どんな釣り?するの。
私 「会社の上司が釣りキチなので、海釣りを楽しんでいます。少しですけど」
年上の人「今日、高塔山登って見たとき、青い海に島がたくさん、ありましたね、あの島に行ったことあるの?」
私 「一番近くに見えた馬島、次が、長く見えていた藍島は小倉浅野から定期船で学生時代、魚釣り良くしていました。
左側に見える小さい島は男島、隣りが女島、二つ合わせて白島と呼んでいます。
この島は会社の上司と渡船で渡りクロ釣りしました」「その沖にあるのが蓋井島、この島は下関市吉母港から定期船で行けるのです」
年上の人「凄い、ジョーさんは、本当に釣りが好きなのね、私、驚いています」
私 「こんな事しか、話せなくてすいません」
年上の人「いいえ、貴方と知り合えて色んな事、学べているもの、それに弘くんに自慢ができるわ、貴方の事」
私 「すいません、こんな話で」
夏日の夕方は散歩する方が多く、私達が楽しくおしゃべりしている前を、通ったり、公園で遊んでいるファミリーの方、ママと小さな子供達のコミュニケーション、見とれながら私達もベンチから離れ、いつものように、若松ロータリーバス停まで歩く私達。
その二人の影が長くなるころ、バス停に着き、小倉行きの西鉄バスが私を迎えてくれた。
優しい笑顔の年上の人が「ありがとうジョーさん、そして、さようなら、又ね」の言葉を聞いて「さようなら」が素直に言えた。
マイファミリー 「年上の人」 3続く
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